蛍が飛んでいたあの日の思い出は 苦いくせに何故甘いの?

初めての抱擁。別れの抱擁。

二つが一つになって

 

「剣路…、薫殿、見てごらん、ほらほら。」

 

「わぁっ!綺麗だねぇ、剣路。」

 

剣心に導かれて、同じ毛色をした息子が、ふと、目を輝かせた。

その二人の目線の先には、視界いっぱいに広がる…蛍、蛍、蛍。

 

――しばらくは剣心がいなくなった象徴みたいだったから蛍は嫌いだったけど。

 

「きれいー!あれなんていうの?母ちゃん。」

先程よりも、目をきらきらと輝かせ、剣路は野原に舞う蛍を指差した。

 

「あれはねぇ…蛍、っていうのよ、剣路。」

 

――あの暖かい光と剣心の眼差しが交差して 見るだけで涙が出ちゃった時もあったけど…

 

「ほ・た・るぅ?」

 

「そうそう。」

 

――今は隣にいてくれるって約束してくれたから。

 

「剣路くんーこっちいらっしゃい!」

 

「燕ねーちゃぁ…」

 

燕に呼ばれて、幼い足でとことこと、剣路は歩いていく。

その姿を剣心と薫は微笑ましい顔で見送って

ふっと笑いあった。

 

 

「あの二人の邪魔しなければいいでござるがな」

 

「大丈夫よ、最近いい雰囲気だもの。」

 

剣心の緋色の髪は月に反射している。

 

「ははは、そうでござるなぁ。」

 

――本当に笑ってくれるようになったね?剣心。

行っちゃう前はなんだか一歩ひいた感じだったけど。

 

「あの二人に子供が出来る頃には剣路もすっかりお兄さんよね?」

 

だから私も安心して笑えるの。

 

「まだまだ先でござるよ、薫殿」

 

「そんなことわかんないよ?」

 

こうやって……ずっと一緒にいようね?一緒に笑おうね?

 

「かぁちゃん、とーちゃん!!」

 

「ん?どうしたでござるか?」

 

「どうしたの、剣路。」

 

何だかひどく慌てた様子でこちらへ駆けて来る剣路の顔を二人で覗き込んだ。

 

 

「母ちゃん、ほたる、好き?」

 

「…大好きよ〜?」

 

ちらっと剣心の方を見てみたら剣心はちょっと驚いた顔していて。

 

「お父さんとの思い出だもの」

 

自然と、そんな言葉がこぼれた。

剣路は何かを小さな両手で閉じ込めているみたいに見える。

 

「母ちゃん…手出して!母ちゃんにあげるね」

 

剣心もかがんで私の手の中に入ったものを見る。

 

「あのね、ほらね、捕まえたの、ほたる。」

 

剣路の小さい手からあったかい光が3匹飛び立った。

 

「わぁ…綺麗」

「綺麗でござるな…」

 

ぽぅと、明るい光が三つゆっくりと草むらへ帰っていく。

同じような顔をしていつまでも蛍を見ている剣心と剣路に

やっぱり親子なのね、と自然に笑みがこぼれる。

 

そんな剣路と剣心の顔を代わる代わる見ていたら

あの苦くて甘かった思い出がいっそう大事に思えてきて。

 

「ありがとう…剣路。」

そっと剣路の頭をなでる。

 

「ありがと、剣心」

「?」

 

なんの脈絡もない薫の言葉に、剣心は目を丸くする。

 

――思えばあれが出発点だったのかもしれない。

 

「いいの、とりあえずありがとっ」

ゆっくりと笑顔に変わる剣心の表情。

私の好きな、あなたの笑顔。

 

「こちらこそありがとうでござる」

 

剣路に見えないようにそっと手をつないでくれたのは

分かってくれたってコト?

 

「本当に、綺麗だね―…」

 

あの日の思い出は

 

苦いくせに甘いの

 

今あなたが側にいてくれるから…。

 

 

END

かなり前に書いた作品ですが、ある素敵サイト様の素晴らしき管理人様からイラストを頂いたのをきっかけに少しだけ加筆を行いました。ぜひ、いただき物の「素敵イラスト」をご覧下さいませ!

この小説の挿絵を書いてくださいました!こちらです。

 

感想などありましたらBBSなどでお願いいたします☆管理人、泣いて喜びますよv

2004.3.22 up

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