甘味処にて

甘味処にて


「薫殿、そんなに慌てなくても…。」

 

「だって!お腹すいちゃったんだもの」

 

薫と剣心はゆっくりとした足取りで会津への道をを歩いていた。

高荷恵に会いにいくためだ。

 

「転ばないように気をつけるでござるよ?」

 

「大丈夫よ、それより早く!!」

 

「そんなに急がなくても甘味処は逃げないでござる…。」

 

「でーも!早く早く!!」

「はいはい」

 

剣心は苦笑しながらてくてくと薫を追いかけた。

 

『あんみつとところてん一つづつ。』

 

剣心と薫は向かい合って座ると、

店員がちょうどお茶を運んできた茶を飲んで一息ついていた。

 

「はーっ。疲れたぁ。けっこうきつい山道だったわね?」

 

「ん〜、そうでござったなぁ。でも次からは楽なはずでござるよ。」

 

「でもまっ、足を鍛えられるし、いいか」

 

「じゃあ荷物拙者の分も…。」

 

「こらっ!調子にのらない!」

 

薫殿は対して荷物持ってないでござる、と薫に聞こえないように剣心はつぶやいた。

二人が会津のは訪れるのは今回で2回目だった。

でも二人だけで訪れるのははじめての旅。前は、弥彦やすずめ、

あやめを連れていったのでゆるやかな道の方を選んだ。

 

「でも、甘味処ってけっこうあるのね、うれしいわ。」

「薫殿はあんみつが好きでござるからな…」

「あら、剣心はいつもところてんじゃない?」

 

違う道を通っていったときもたしか似たような甘味処に立ち寄った。

 

 

「ねぇ、前に似たような甘味処に入ったじゃない?」

 

「おろ?あ、あぁ弥彦たちも連れていったときでござるな?」

 

「そうそう」

 

『おまちどうさまぁ』

 

「あ、どうも」

「さ、食べるでござるか。」

 

運ばれてきたあんみつに栗が入っていなかったので薫はちょっと不機嫌そうな顔をしたが

一口食べるとその機嫌はすっかり直ってしまった。

 

「それで・・・。私達、夫婦に間違えられたのよね」

 

「あぁ、そうでござったなぁ」

 

剣心はなつかしそうに薫の顔を見て、急に思い出したように赤くなった。

 

「まぁ、子沢山ですね、って言われちゃったのよね」

 

その剣心の様子を見てくすくす笑いながら言う。

 

「弥彦ったら怒っちゃって」

 

『俺は十一だ!そんで薫は十八!七才しか違わねぇーのに産めるかっ』

 

薫は弥彦の口真似をする。表情までよく似ていたので思わず剣心は吹き出してしまう。

 

「あの子、自分が子どもに見られたと思ったのよね、きっと。」

 

剣心がいつまでも笑っているので薫も笑ってしまう。

 

「そうでござったなぁ」

 

剣心はまだ笑いがおさまらない。

 

「もう、剣心ったら笑い過ぎよ!!」

 

「いや、すまない、でも止まらないでござる」

 

「そんなに似てたかしら?」

 

「あぁ、それは弥彦の前でやらぬほうがいい」

 

もう薫はあんみつを半分以上食べていた。そうね、と言って笑い、

いたずらっぽい視線で剣心の顔を見た。

 

「ねぇ。」薫が遠慮がちに剣心に声をかけた。「ん?」

 

 

 

「ところてん、一口ちょうだい?駄目?口の中が甘くって・・。」

 

「拙者も前々からあんみつを食べてみたかったのでござるよ、交換せぬか?」

 

剣心はまだ半分以上残っているところてんを薫に差し出す。

 

「うん、そうしましょ。でも、剣心甘いもの好きじゃないんじゃ・・・。」

 

ところてんを受け取りながらあんみつを差し出す。

 

「いや、薫殿があまりにもおいしそうに食べるから」

薫は不思議そうな顔で「それだけ?」と問う。

 

「それだけでござるよ」口ではそれだけ、なんて言ってしまったがそれだけじゃない。

 

剣心はそういいながらぱくりと白玉を口に入れた。

 

「ん、なかなかいいでござるなぁ。どれもう一つ。」剣心はあんみつが気に入ったようだ。

 

薫はところてんを一口食べながらおいしそうにあんみつを食べる剣心を見ていたハッとした。

 

「け、剣心…。」   「ん?」

 

「さじ…。そのままだよね…。」 「あ…。」

 

1年前の二人ならさじも無意識に交換していたかもしれない。

 

「忘れてた…ね?」

「まぁ、いいじゃないでござるか」

「そうね」

 

「ところてんもけっこういいわね?」「ん、あんみつもなかなか。」にっこり笑う二人。

 

「もう少し歩いてから宿を探そう。」「ん。」

 

冬は日の暮れるのが早い。二人の座っているいすにも夕焼けの色が見え始めていた

                                           END

あえてノーコメントで(苦笑)                                    

BACK