君の声が聞える/第四幕『傷桜』 |
『君の声が聞える〜其の参〜』 ぴたりと男の足が止まった。 暗い、路地。 「神谷、薫だな。」 薫の背後から、冷たい声が聞えた。 いやな予感が走る。 薫に助けを請った男を見ると もうそこには、その男の姿はなかった。 「赤べこの嬢ちゃんとやらは、俺らは何にもしてないぜ、俺らはな。」 (…だまされた。) 薫が額に冷たい汗が流れるのを感じた。 何か言い返そうと思っても むなしく、空気が喉をかすめるだけだった。 「お前さんに何の恨みもねぇが、抜刀斎には恨んでも、恨み切れねぇもんがあってな。」 薫は、痛みを覚えた。 この人たちは、剣心を恨んでいるー…。 あんなに優しくて、それゆえに傷ついているあの人を。 緑の時に感じた、同じ痛みー…。 「悪いが、人質になってもらうぜ。」 (…この数じゃ…勝てるか分からない…でも燕ちゃんを早く助けなきゃ…) 囲まれた。 誰もいない路地で 六人の男に。 (…あきらめないっ…!!) 薫はとっさに近くにあった棒を握りしめた。 「ほぉ、やる気か?」 「ちょっとくらい痛めつけた方が、おとなしくなるんじゃねぇか」 男たちが下品な顔をさらに歪ませて 薫を見た。 「こいつぁ、神谷活心流とかいう貧乏道場の師範代だとか言いますぜ」 リーダー格らしい男に 汚い着物を着た男が媚びて、言った。 「そうかそうか、それじゃあさぞかし達者な腕前なんだろうな。」 「腕前頂戴とするか、えぇ?お嬢ちゃんよ。」 薫は自分の顔が紅潮するのを感じた。 怒り。 それと同時に感じた、悲しみ。 女一人に男六人は卑怯だ。 しかも、獲物は刀だけではない。 …鉄砲。 リーダー格らしい男が腕に潜ませている。 弾道は常に自分の方に向かっているのを 薫は見極めた。 「やれ。それなりに手加減しやがれよ。俺らの目的はこいつじゃねぇんだからな。」 「おぉ」 リーダー格の男がそういうと同時に 一人の大男が薫に攻撃をしかける。 「おりゃぁあぁぁ」 大ぶりの太刀筋。 力任せに刀を振り回すのを薫は見切って 背後に回り、すばやく急所をついた。 「つぅ…なんだこのあ…ま…」 大男はそうつぶやいてその体を倒した。 砂煙が、たつ。 薫は、新たな敵に剣を構えた。 (…一人一人かかってくれば…勝てる…けど…) 「二人でかかれ。」 リーダー格の男がそう指令すると 痩せ型の男と中背の男が薫に向かって突進してきた。 一人の男は剣術をならった形跡があり、 薫の剣を一度受け止め、離れた。 その背後にもう一人の男が回る。 「はさみうちたぁ、やることがきたねぇんじゃねぇのか。」 「まったくだ、おいやめてやれよ」 残りの男たちとリーダ格の男が下品に笑った。 (…勝てる。これに勝てばきっと誰かがきがついてくれる…) 薫は一度棒を落とした。 足元に落とした。 からん、ころんと棒が男の足元に転がる。 「そうか。降参か。なかなか頭のいいお嬢ちゃんだ。」 痩せ型の男が、その棒を拾ってにやにやと薫を見た。 次の一瞬。 その男が薫に倒された。 体術。 しなやかにその体を動かし男が宙を舞い地面へと落ちる。 もうその倒された男は意識を失っていた。 「何?!」 中背の男が驚嘆の声をあげる。 その次の一瞬。 薫は拾った棒で男の水月をつく。 人体急所のひとつだ。 「な…に…」 男は声だけは一丁前に出したあと 大男に重なり、倒れた。 「ほぉ…さすが師範代。というところか。」 先ほどまでうすら笑いを浮かべていたリーダー格の男の顔から すぅと笑みが消えた。 (…まずい…。) 薫は心の中でそう思った。 (…この男私を…撃つ気だわ) 「抜刀斎が来るまでは静かにしてもらわにゃあ、困るんだよ。」 チャッと銃を構える音がした。 先ほどのように隠されてはいない。 男のひどく冷たい目が薫を突き刺す。 銃口は真っ直ぐに薫を狙い 男がその指を銃にかけた。 (…剣心) 殺されはしない、人質なのだから。 そうは分かっていても 恐怖は薫を蝕んでいく。 後ずさりはするまい。 やっとの思いで棒を構えその男に 厳しい視線を浴びせる。 「なんだその目は…大人しくしてればいいものを…馬鹿め」 男がまたうすら笑いを浮かべた。 それと同時に、 鋭い音がして 薫の頬を何かがかすめる。 すぅと切れた切り口から赤い鮮血が吹き出た。 …銃弾だ。 もう一発。 パンっという鈍い音とともに 薫の足元にも銃弾が跳ねる。 足からも赤い鮮血と、感じたことのない鈍痛。 優しい桜色の着物に赤い血が吸い込まれていく。 薫は背筋がぞっとするのを感じた。 足の力が抜けていく。 足から全身へ、その脱力感は広がる。 薫の体をじわじわと満たす、二つの、痛み。 体と…心と。 二つの、痛み。 (…剣心…助けてっ…!!) もう一度その銃口が薫に向けられたとき 大きな怒鳴り声がして リーダー格の男が一瞬にして倒れた。 「んだてめ…ぇ…」 周りで見張りをしていた者たちも 一瞬にして倒れた。 「嬢ちゃん!」 怒鳴り声の持ち主は左之助だった。 赤い鉢巻をひるがえし、急いで薫の方に駆け寄る。 「一体どうしたんでぇ、こんな人通りの少ない所で…!おい、嬢ちゃん!!」 薫はその姿を確認すると 一度瞳を揺らして「つばめちゃんをたすけて」と口角を動かした。 そして次の瞬間、左之助の声が遠のいて、 薫は気を失った。 「流浪人日和」の夢月閏さんが挿絵を書いてくださりました。↑ありがとうございます! END |
事件連続ですね。大変です。薫ちゃんvs男たちでした。 長編です。良かったら感想とかBBSで聞かせてくださいねv 2004.9.11 up ★挿絵随時募集しています★ |