君想宿 美咲自作小説

君想宿

「…ここでござるか…」

 

「立派ねぇ…。」

 

剣心と薫は弥彦のはからいで少し人里を離れた宿へと足を運んでいた。

 

「さすが創業100年目・・・なんだかとっても素敵ねぇ…」

 

その宿は緑に囲まれた素朴な宿。江戸中期からの歴史を持つ、広い宿だ。

 

「うふふ、お褒めいただいて光栄でございますわ、さぁさ、お二人様

お部屋にご案内いたします。お荷物をお貸しくださいませ」

 

二人を見て、女将はなにやら一瞬にやけた顔をした。

 

「あ、かなじけない」

少し年を過ぎていたがその女将はまださぞかし

美人だったろう面影を残す微笑で二人を招き入れた。

 

「お二人さんは御夫婦でいらっしゃるのかしら?」

剣心から荷物を受け取りながら二人の顔を代わる代わる見る。

 

「ええ、まぁ…。」

剣心と薫はお互い顔を見合わせて言った。まだ、夫婦という響きには慣れていないのだ。

 

「それでは・・お部屋一緒にしておきますわね。お春、松の間へおとおししてくださいな 」

 

女将はまたクスリを笑って「お春」と呼ばれた女に軽く合図をすると

忙しそうに 何処かへ行ってしまった。

「はい。」

春という女性も愛想よく返事をすると荷物を持って二人を案内し始めた。

 

「へぇ、あなたは若女将さんなんですね?」

「ええ、そうなんですの。」

 

若女将のお春は松の間につくまでに旅館の庭や池などを二人に案内してくれた。

 

「100年もたっているとなると風情もありますけど、なんだかお化けてきそうですね?」

 

「まっまさか薫殿…ははは、すまないでござるなぁ、

春殿。妻が変なこと言い出して…。薫殿、お化けなどいないでござるよ」

 

二人のやりとりを微笑ましく見ていた春は少し困ったような顔をしながら

 

「ここ…出るんですよ」と剣心と薫の方を見てにっこりと笑った。

 

「え…」

「出るって何がですか?」

 

しばしの沈黙。

まさかという顔をしている剣心の腕をきゅっとつかみ薫は春に聞いた。

 

「お化け…というのかしら、一種の妖怪と呼ばれているものですわ…。害はもちろんの

ことございません。お気になさらずに…あ、ここです松の間。どうぞごゆっくり…。」

 

お春はにこやかにそう言うと荷物を置いてどこかへ行ってしまった.

 

「剣心〜妖怪だってぇ…どうしよう…。」

 

いつまでも怖がっている薫を可愛いやら弥彦に見せたら何ていうかやら

いろいろ入り交じった笑顔で「大丈夫でござるよ」と言う。

 

「だいたい害はないと言っていたし。心配しすぎでござる」

 

「でも…。」まだ剣心の着物の裾をつかんで離さない薫に剣心は苦笑しながら

 

「拙者がいるでござろう?」と薫の手を自然に取った。

 

「…納得。」

 

薫は笑いながらそう言うと剣心が握った方の腕に抱きついた。

 

 

「ごちそうさまでした。」

松の間でゆっくり夕食を終えた二人はもう薄暗くなってきた部屋で晩酌をしていた。

 

「ん〜皆と飲むお酒もおいしいけどやっぱり剣心と飲むお酒は格別ねぇ…景色も最高だし」

 

「そうでござるなぁ…弥彦に感謝、でござるな」

 

「あはは、そうね。お土産買わないと、たくさん。」

 

『ボク 温泉饅頭がいいー』

 

「…?剣心今何か言った?」

 

「いや?何も。薫殿こそ何か言ったでござるか?」

 

「…そら耳よねきっと…」

 

空耳といいつつ薫は少し怖くなって向かい合って座っていた場所を少し近づけた。

 

「薫殿…何だか寒くないでござるか?」

剣心はたらしていた髪を結びながら薫に言った。

 

「うん…何だか寒いかもしれない…。」

自分の体を擦りながら薫は答えた。

 

『くすくすくす…』

 

「薫殿、今…笑った?」

 

「ううん、笑ってないよ?」

 

『クスクスクスクス…アハハ…』

 

どこからともなく小さな子供の笑い声が二人の耳に入ってきた。

 

「なっにこれぇ…剣心…!!怖い…」

 

剣心は相当恐がっている薫を抱き寄せながらあたりを見回した。

 

『アハハッ…』

その声はどんどん近づいてくるように聞こえる。タタタタッとかけるような足音もしてくるのだ。

ぎゅっ。

薫を抱きよせる力にも自然に力が入ってしまう。

 

「いやだぁ…剣心…。近づいてくるよぉ…。」

 

真剣を持った男の前でも少しもひるまない薫が急にしおらしくなって

剣心の腕の中で怯えている。こんな薫を見たらきっと弥彦はからかうだろう。

しかし、剣心は薫が怖がっているにもかかわらず抱きついてくる

薫の鍛え上げられているが柔らかい体に緊張した。

 

「大丈夫…大丈夫…でござるよ…」

 

自分にも言い聞かせるようにし近づいてくる足音のほうに視線を泳がせた。

ひゅっ。何か暖かい風が一筋勢い良く通るとしばらくしてからいきなり静かになった。

 

「おさまったか…」

剣心と薫はお互い安堵の表情を浮かべたが薫は剣心の背中に手を回したまま、

剣心はその薫の髪をゆっくりと撫でている。

 

『良かった』

 

ふいに先程の声が部屋に響いた。

声がしたほうを見ると小さな子供がにこにこを笑っている。

子供、といっても実体ははっきりせずぼんやりとしていた。

 

『僕の将来のお父さんとお母さん』

そのぼんやりとした光はまた笑った。

 

「将来の・・・お母さん?」

 

薫の目はその光の方に向けられていた。

多少の恐れの感情は残っているらしいが、遠慮がちな声で言った。

 

『そうだよ、僕生まれかわるんだ今度ね。それでお父さんとお母さんを探してたの』

脅かしてごめんね、とつけたして光は少し上に昇った。

 

『でもさ、進展がいくらなんでもなさ過ぎるから僕が本当に生まれられるのか心配になっちゃってね』

 

「なっ…」光が自分のほうを見たような気がして剣心は赤面した。

 

『でも大丈夫だね、心配ご無用だった』

 

剣心はバツの悪そうな顔で薫の方をちらりと見ると更に赤面した。

『じゃ、僕もう行くね』

 

「まっ…待ってあなた名前は…?」

 

薫が今にも消えてしまいそうに薄くなった光に叫んだ。

 

『内緒。どうせ二人とも今あったこと忘れちゃうから。

僕もね。じゃあまたね、お父さん、お母さん…』

 

それだけ言うと光はすっと消えた。

 

*             

 

「あ・・あれ?私達何して…っ!きゃあごめんなさい、私っ」

「お…おろ?わっ!せっ拙者こそ!」

 

二人は自分達が抱き合っている事に気づき、離れた。

 

「っっびっくりしたぁ…」

「いや…でも拙者達は夫婦でござるし…その、別にでござるな」

 

一度は離れたものの剣心は誰かがくれたせっかくの好機を逃してはいけないと無意識に思う。

…あの淡い光のことは二人は覚えていないのだ。

 

「そ、そうよね。夫婦なわけだしね、、、アハハ…」

 

薫もどこか、離れてしまった事を誰かに悪い、と思う。

その誰かは、いまいち分からないのだが。

 

「薫殿…おいで…?」

剣心は手を広げた。

 

「うん…」

 

『アハハ、良かった。ね、神様見て、僕のお父さんとお母さん』

『あぁ、お前をきっと幸せにしてくれるだろうよ』

『うん、きっとね』

END

わけわからん小説第二弾!!剣路くん座敷わらしになってるし。完璧オリジナルなってますね

(><)ワースト3には確実に入る反省が多い(反省ばっかりともいう/終)小説。んで、削除する予定だったのですがアンケートをとった結果、好きな小説ベスト2だったんですね(笑)ということで削除はしません(単純)こんな小説でも好きって言ってくださる方がいるんです(嬉泣)感謝です♪

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