*同じ気持ちでいられたら、ずっと二人でいられたら。* |
ずっと二人で
幸せを肌で感じるこの場所で あなたと二人 季節は廻って 運命もくるくると狂うように廻る けれど ずっと二人でいられれば あなたさえいれば。 言葉に出来ない 消えそうもないこの想いを。 ただ、今は君を感じられる場所で。 静かに眠ろう。 * 「私達、夫婦になったんだねぇ…」 ふと葵屋の一室で薫がつぶやいた。 季節は初春。冬は白く咲き誇った後、 春の夜特有の温かな空気がその部屋に流れ込んでくる。 「…いきなり何を言い出すかと思えば。」 薫の夫となった男―緋村剣心は 後ろから聞えた声に振り返り、彼特有のふわりとした笑いを薫に向けた。 「ん…なんか幸せだなぁと思って。」 剣心と薫は京都での友人―操や京都御庭番衆の皆にも 二人の祝いをさせて欲しい、ということで 葵屋を三日ほど貸切にして、毎夜毎夜、宴会をしているのであった。 「―…それを言うなら拙者もでござるよ?」 今はその2日目の宴会もお開きになって 二人ともやっと自室に戻ってゆったりとしていた。 「そ?」 薫はくすぐったそうに笑うとそっと剣心に身体を預けて ゆっくりと目を閉じる。 二日の宴会続きである。さすがの薫も、みんなの気持ちはとても嬉しいのだが 疲れが出てきているようだ。 「あぁ。」 薫の問いに頷くと剣心は黒く光る薫の奇麗な髪を手ですぅと梳く。 薫は目をうっすらと開けて剣心の方を見ると 剣心をずっと守ってきた笑顔をまた彼に向けるのだった。 ――何を犠牲にしても 守るべきものがあるとして 俺にとって今君が それにあたると思うんだ。 薫と祝言をあげてから、いや、きっと その前から、薫が剣心に教えたこと。 自分の肌で感じる愛しい人の温もり。屈託のない笑顔。 自分の名を呼んでくれる声の柔らかさ。 自分の体温を必要としてくれる人の存在。 帰る場所があることの、幸せ。 自分の一回り小さい少女が教えてくれた、幸せ。 「ねぇ剣心…ぎゅーってして?」 「…こうでござるか?」 薫の背中に手が回されて肩に剣心の腕の重みが加わる。 もう何度目になるかは分からない優しい抱擁。 剣心の腕は思ったよりたくましくて 身体もがっしりとしていた。薫の体がどうしてこんなに合うのだろう、というように ぴったりと添うのであった。 東京でただ一度別れを告げ抱きしめた時は そんなことを感じる余裕なんてなくて ただ薫の甘い香りが身体に残っていただけだった。 まさか、こんな日がくるなんて。 あの時は思いもしなかった。 「…もっと。」 「薫殿は甘えん坊でござるなぁ…。」 腕の力を強くして、それでも優しく、剣心は腕に力を込める。 あの日、このまま離したくないと思った薫を。 指を絡めてまた薫は剣心の胸に顔をうずめて。 「なんかずっとこうして…いたいな…」 小さな声で薫はそう言った。 あの時東京で二人とも離れたくないと思っていただろう。 でも今は二人がずっとこうしていたい。 そう思えば…。 ずっとこうしていられる…。 剣心はそう思うと心のどこかがじんわりと暖かくなってくるのであった。 自分が背負ってきた罪も何もかも 今自分の胸の中にいるこの人がいれば乗り越えていける気がした。 戸惑ったりもした。自分を責めたりもした。 自分の罪で彼女を汚しはしないかと。 それでも、言葉にはせずとも、もう、薫がいなければ 自分がどうなるか、もはや想像もつかない。 それほどに、愛してしまった。もう後戻りなどできない。しようとも思わない。 ただこうしている間は薫のことだけ考えよう、そう思った。 「……愛して、いるよ…薫殿、薫、…愛してる…」 普段、気恥ずかしくてなかなか言えない言葉が そう思うとすんなりと出てきた。 愛している、そう言えばこの想い全て薫に伝わるとは 到底思えないが。 自分の一生をかけてこの想いを、薫に伝えよう。 剣心はまた自分の胸の中、極上の笑顔で笑う妻の瞼に 優しく口付けを落とした。 私も、と、優しく言う薫に剣心はもう一度、 今度は唇に口付けを落とす。 「愛してる……」 静かな部屋にこだまする。 愛してる、この世できっと一番大切な相手に使うその言葉。 夜明けはまだ遠い。 月が明るい。二人の薄い影は障子にうつる。 京都の夜空もまるで二人を祝福しているかのように。 きらきらと輝いていた。 END |
王道カップリング剣薫です。アンケートで一番人気だった、『新婚ラブラブ』です(笑)また、22222hitのレオのママさまのリクエストにもそってラブラブ★にしてみました。最近シリアスが多かったので書いていてとても楽しかったです。いちゃいちゃ度も高いですしね(爆笑)最初の詩は美咲の自作。(笑) 2002.1.26 up |