水無月の風
 

 

 

 

 

 

 

 

 


さらりと。
 
水無月の風が薫の頬を撫ぜた。
 
傍らには、最愛の人の温もり。
 
幸福な時間。
 
水無月も終わりに近い20日。
 
夕日は、血を混ぜたように赤い。
 
隣で眠っている人の規則正しい寝息が、薫の髪を微かに揺らす。
 
「ん……。」
 
不意に、剣心が目を覚ます。
 
「あ、起きた?よく眠れた?」
 
薫が笑顔で覗き込むと、夕日のせいではなく、剣心の顔が赤く染まる。
 
 
 
今日は、剣心が生まれた日。
 
優しい剣客が、この世に生を受けた特別な日。
 
 
 
薫は何かしてあげたかったのだが、
 
「ただ、側にいるだけでいい。」
 
と、真剣な瞳で見つめられては、側を離れることができなかった。
 
甘い視線に心まで絡め捕られてしまって。
 
 
 
だから。
 
 
 
縁側で、時間が流れていくのを二人で楽しみながら。
 
手をつないで、お互いのぬくもりを実感しながら。
 
いろいろ昔の話をして、過去を共有しながら。
 
 
 
最愛の人の生まれた日は、静かに過ぎて行った。
 
 
 
「あ…あのね。」
 
薫が、剣心に話し掛ける。
 
「ん?」
 
………………………」
 
剣心の耳元に口を寄せて、こしょこしょと囁く。
 
ぽんっ!と音を立てそうな勢いで、剣心の顔が、朱に染まる。
 
「本当でござるか?」
 
隣に座る薫も心なしか顔が赤い。
 
…………うん。本当。」
 
そして、ゆっくりと視線をおろして自分のお腹を見つめると、愛しそうに撫でる
 
その手に、そっと剣心の手が重なる。
 
優しい沈黙が、二人を包む。
 
夕日は沈んで、あたりは、段々薄紫色に染まっていく。
 
薫の頬にそっと手を添え、唇を重ねようとしたとき。
 
薫の頬が、濡れているのに気付く。
 
なぜ…?と聞こうとした瞬間、薫の唇が、言葉を紡ぐ。
 
 
 
「剣心。生まれてきてくれてありがとう。」
 
涙をいっぱいに溜めた瞳で剣心を見つめて。
 
 
 
「側に…いてくれてありがとう。」
 
剣心の着物のあわせをきゅっと握り締めて。
 
 
 
…っ。ありがと。」
 
あとは、言葉にならない。
 
 
 
瞳から、ポロポロと零れる涙。
 
剣心の着物に染みていく。
 
薫の背中に回した腕を、子供をあやすように軽くポンポンと、規則正しく弾ませ
る。
 
しばらくして、顔を上げた薫は、耳元に囁いた。
 
 
 
「お誕生日おめでとう。」
 
 
 
涙に濡れた瞳を笑みの形にして。
 
まつげの先に残る涙を、指先で軽く拭って。
 
剣心と薫の唇が、軽く重なった。
 
水無月の風が、二人を包んでいた。
 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戻る

 

 

kaoru様から頂きました。

なんていい小説なんでしょうっっ!!

ほのぼのとしているなかに感動がありますよね!!

「剣心。生まれてきてくれてありがとう。」

ってもう!!ノックアウトですよ。

「側に…いてくれてありがとう。」

……。幸せな二人って

こんなに素敵なんですね(^^)

 

私がkaoruちゃんの誕生日だから、と言って

バナーを贈ったら

こんなに素晴らしい小説が。

本当に有難う御座いました!!