*…満桜…*

 

満桜

 

 
  春満開。
  桜も満開。
  どんな絶景よりも綺麗な桜並木を
  大好きなあなたと共に歩けたら、
  どんなに素晴らしいことでしょう―――――。
  
  
  
  「ただいま〜っ!」
  透き通るような声が家中に響き渡る。
  あれ?おかしい。
  何時もならこの辺りで「おかえりでござる。」って
  優しい微笑みと共に、あの人が出てくるのに・・・。
  
  「剣し〜ん〜?」
  叫びながら家中を探してみる。
  「あっ!」
  縁側に座る緋い髪を見つけ、ゆっくりとそちらへ歩む。
  
  「こんな所に居たのね、剣心。」
  後ろに立ち、声をかけると、
  優しい笑みがふわっと振り返った。
  「おろ?薫殿、お帰りでござる。」
  「珍しいわね、剣心が気づかないなんて。」
  くすくす笑った。
  そう、何時もは帰ってきたらもうすでに
  私の気配に気付いて、玄関で待ち構えていたりするのだ。
  
  
  「ああ。桜を見てたんでござるよ。」
  くすくす笑い続ける私の方に、微笑みつつ、剣心が言った。
  「桜?」
  「ああ。ほら、あそこに咲いてるでござる。」
  そう言って剣心は先程まで見ていた方を見る。
  隣に座り、剣心の視線を辿ると、確かに桜があった―――。
  道場から少し離れたところにあるのだろう、その桜の木は
  一本だけだったが、それでも己の存在を誇示するかのように
  満開で咲いている。
  
  「よく見つけたね、剣心。ここからじゃ、少し小さく見えるし、こうやって座らな
   きゃ気付かないのに。」
  その言葉に剣心は嬉しそうに子供のような笑顔を見せた。
  
  「あの桜を見てると、薫殿を思い出すでござるよ。」
  「え・・・?何ソレ、どういう意味?」
  今度はそっと微笑う剣心。
  「きっと一人で寂しかったんでござろうな。
   あの桜も、薫殿も。
   誰かに気付いて欲しくて、満開に咲き誇っている。
   何だか、そんな風に見えたでござるよ。」
  
  剣心の言葉を聞いていると、何故だか大粒の涙が頬を伝った。
  何も答えない私を不思議に思って、振り返った剣心は
  私のソレに気付き、驚き慌てた。
  「か、薫殿っ!!?ど、どうしたでござるっ?拙者、変なこと言ったでござ―― 
  ―。」
  「う、ううん、違うのっ!何か・・・分かんないけど・・・へへっ、涙が
   勝手に・・・。」
  本当、何で涙なんか・・・。
  涙が止まらない私の肩に、剣心が手を回して、私は剣心の方に引き寄せられた。
  「薫殿。気付いて欲しくて咲き誇った桜は、誰かに気付かれた後でも、拙者達を
   魅了するかのようにまだまだ咲き誇るでござるな。」
  剣心は優しくつぶやいた。
  「薫殿も満開に咲き誇っているでござるよ。拙者が薫殿の傍に居ても。
   綺麗に―――。」
  剣心があまりに優しく話すからか、何時の間にか涙が枯れていた。
  それでも剣心の手は私をなだめるように、背中をぽんぽんと叩く。
  私も剣心の背中に手を回し、ぎゅうっと抱きしめた―――。
  
  「薫殿。今度、夜桜見物をしに行こうか。・・・その、ふたりっきりで。」
  最後の方は剣心の声が消え入るように小さかったけど、私の耳にはしっかりと
  届けられていた。
  少し驚いて顔を上げると、剣心が珍しく顔を真っ赤にしていた。
  「うんっ!約束よ。」
  くすくす笑いながらそう言うと、剣心も微笑んだ。
  「ああ。約束するでござる。」
  一本の桜はそんな二人をいつまでも照らしていた―――――。
  

 

 

 

                               END

5月のお題「ふたりっきり」に撫子さんが、挑戦してくださいました。挑戦テーマは「ふたりっきり」。そのテーマにぴったりとそった剣心と薫のまるで原作を読んでいるようなお話でした。剣心の、薫を本当に大切に思っている気持ちが、ひしひしと伝わってきて、このー!薫殿の幸せ者!な幸せほのぼの小説でした。撫子さんへのファンレターは感想BBSに書いてくださいね♪撫子さん、風花庵のお題に挑戦して下ってありがとうございました。素敵な小説、宝物にします^^   2004.6.20

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