*…撫子さんより…* |
倖せ
その男(ヒト)は突然、やって来た。 暑い暑い夏の日から解放されて、夜はめっきり寒くなってしまった秋のある日。 神谷家はいつも通り、穏やかな一日が過ぎてゆく・・・・はずだった。 「けーんしーんっ!剣心ーーっ!!」 「おろ?」 玄関から自分を呼ぶ薫の声に、庭先で洗濯をしていた剣心は顔を上げた。 何でござるかな―――?? 袖元を捲り上げた襷をはずすのがめんどうだったので、襷をかけたまま、 縁側で眠る我が子の横をそぉっと通って玄関へ向かった。 玄関からは何やら薫が客人と楽しげに会話をする声が聞こえる。 近付いていくうちに、剣心の耳にも聞いたことのある客人の声が届いた。 その声の主に見当をつけた剣心の足どりは急に重くなった。 ――――・・・嫌な予感。 剣心は逃げ出したくなった。 だが、薫はそんな剣心を目ざとく見つけ、 「あら、剣心。来たなら声かけてよ。」 薫の満面の笑顔から逃げ出せなくなった。 「・・・お久しぶりです、師匠。」 突然の訪問客に剣心はとりあえず挨拶をした。 「何だ、その嫌そうな顔は。」 心の中で考えてることが顔に出ていたらしい。 薫がお茶を入れて運んでくる。 居間には、剣心、薫、そして先刻起きて母親に「この人、だ〜れ?」と 聞く剣路がいた。 薫の入れたお茶を一口すすり、剣心は一番気になってることを尋ねた。 「・・・して、師匠はどうして東京(ここ)に?」 普段、人里離れた山中から出てくることなんてないのに・・・。 そういう男なのだ、この目の前にいる比古清十郎という男は。 なのに・・・。 「俺がそこにいる可愛い嫁さんと、坊主の成長を見に来ちゃ悪ィのか。」 ぶっっっ!! 「ちょっと剣心〜〜。汚いじゃないの、もう〜。」 「父ちゃー、きたな〜い!」 剣心は飲んでいたお茶を吹き出した。 笑顔で薫と剣路がからかう。 「す、すまぬ・・・。」 おろおろと自分の吹き出した茶を拭く。 「言われてるぞ。」 その様子を見て、比古が楽しそうに意地悪く言った。 誰のせいでっ! 剣心はむっとして比古を睨んだ。 子供のようだ・・・。 「そうだわっ!せっかく比古さんが来てくれたんだし、 今夜、この前行ったススキ見に行こうよ、剣心vv」 いろいろと剣心の子供の頃の話などで、盛り上がってる時、薫がススキを見に行こ うと提案した。 「ススキでござるか・・・。」 「ほら、こないだ弥彦や燕ちゃんを誘って行ったトコよ。すごくキレイだったじゃ ない?見に行こうよ〜!」 薫がウキウキした顔でせがむ。 うっ・・・。拙者、その顔には弱いでござる・・・。 「いい話だな。最近、ススキなど見とらんしな。」 比古も賛成した。 かくして、緋村一家3人と、やたらでかいマントを身に纏った無愛想な男が ススキを見に、河原に向かった。 「ぅわ〜、キレー!!!」 秋の虫が鳴いている。 どこまでも続く黄金色の絨毯に、思わず薫は息をもらした。 本当にキレイだ。 キラキラと澄みきった空から月が、河原いっぱいのススキを照らす。 今日は月だけでなく、星もキラキラとたくさん輝いていた。 剣路が黄金色の絨毯の間を駆け抜ける。 「剣路ー!転ばないように注意しなさいよー!!」 剣心、比古と並んで河原の上の道端からススキを眺めていた薫が剣路に注意を 促すよう、声をかける。 「母ちゃー!来てー!!すっごくキレーだよー!!!」 剣路は立ち止まり、ススキの間から母親を呼んだ。 「分かったわ、行くわよー!」 一声かけ、薫も黄金色の絨毯へ下りてゆく・・・。 その様子を剣心はとても穏やかな表情で見ていた。 「幸せか・・・?」 突然横から声をかけられ、驚く。 その様子を黙って見ていたのに・・・。 しかし、剣心はすぐに答えを比古に返した。 「ええ。自分がこんなに幸せでいいのか、と思うくらい幸せですよ。」 剣心の真剣な表情に、比古は顔をそらし、ふっと微笑った。 「そうか、そりゃよかったんじゃねぇか。 人々の幸せを守る、と言った所でその当人が幸せじゃなかったら、 本当の幸せなんて守れるはずもねぇ。」 ぶっきらぼうではあるが、剣心の幸せに喜んでいるといったところか・・・。 比古は剣心に、言葉を送った。 剣心もその意を汲み取り、この先つらいことがあろうが、苦しいことがあろうが この小さな幸せだけは守る、そして行き詰まった時、この比古の言葉を思い返せる よう、しっかりと頭に刻み込んでいた。 「まぁ、幸せだろーな。」 比古がぼそっと言う。 剣心は何だろうと、比古の方を見た。 「あのお前の襷姿を見りゃぁ、すぐに分かる。」 比古はいつもの剣心をからかう時の意地悪そうな顔をしていた。 剣心は顔を真っ赤にした。 「し、師匠っ!!」 くっくっくと笑う比古。 「あんなに似合うお前の姿を見れて、俺は幸せだよ。」 それはからかうネタが見つかって幸せだという意味だろう!と憤慨する剣心を 横目に比古は薫たちの方を見た。 「けーんしーん!!比古さんもー!おいでよー!とってもキレーよー!!」 薫と剣路が手招きをしている。 「呼んでるぜ?」 比古はそういってススキの広がる河原へとマントを翻しながら、下りて行った。 残された剣心も、まったく何のために来たんだか、とブツブツつぶやきながら 比古の後を追い、薫達の元へ下りて行った―――――。 END |
撫子さんより頂きましたv やっぱりしあわせな小説はいいですねぇ、しみじみ。 心が癒されまする。 笑顔は人をしあわせにします。 剣心がしあわせじゃなくては 人々の本当の幸せはやってこないですよね。 比古さん、ぶっきらぼうだけど 実は剣心のことを考えてくれていて 剣心にとっては本当、兄代わりであり父代わりでも あるんでしょうね(^^) 撫子さん、本当に有難うございましたv ●撫子さんからのコメントですv● 美咲さぁ〜ん!お久しぶりですvvこんにちわ☆撫子でっす!! 久しぶりの投稿で緊 張してますが、今回は比古師匠を登場させてみました。剣薫になってるのか疑問ですが、 私の大好きな風花庵さんに載せていただけたら嬉しいですvvきっとそこらじゅう、のた うちまわって喜びます♪でわでわ、また顔出しに来ます☆ |