*…背中…*natsunaさまThank you★

背中

 

その日剣心は1人京都の山の中にいた。

向かう先は、比古清十郎の元である。

訪ねるのは何年ぶりだろう……そう思う。

京都でのあの志々雄との決戦のさい訪れた以来だったりする。

今日の目的は、べつにただ会いにきたわけではない。
 見慣れた窯の前に比古の姿があった。無言のまま歩み寄る。

「剣路はどこですか。薫殿が心配していて……」
「……剣路なら例の滝のほうだ……」

 剣心はずっとあちこちに出かけて戦う事または、人々を助けたりしていた。

まず、家にいる方が少なかったが、剣路も1人でここ比古清十郎のもとに来ていた。

話もろくにしないので、何をやっているかはわからない。

 何年かぶりの再会だが、何もかわっていないこの風景、そして師匠の姿。
「それから……これ操殿から預ってきた、花瓶なんかの礼だと手紙を……」
「そうか、中に置いとけ……。……おいっ何かもっと聞きたい事があるんじゃないのか?」
 

何も言わなくてもこの人にはすべてお見通しなのかと思わせる。あの時京都に来たときも……そう思った。
 
その頃滝の近く……――。

「……今日はこのくらいにするか……。そろそろ東京に帰るか。母さんも心配するだろうし……」

 そう言って歩を進めると2人の話し声で、その歩みを止めてその場にとどまった。

(親父の声? なんでここに来たんだ?)

「……剣路はどうですか? とは言ってもまだ御剣流は教えてないでしょう?」
「まぁそうだ。教えてなくても十分だが……。なぜそう思う?」
「どこもひどいけがした事ないようだから、実戦主義でしょう?」
「何を、言うか。俺の絶妙な手加減というものもあるだろう。それはそうと、剣路は、なまいきな所はお前ゆずりだな。かならず何か言い返してくる。今はまだだが、そのうちどつきあいになるかもな……。バカな所はお前の方がやはり上だがな」

「……そうですか」

 そんなやりとりをしていても、2人は顔をあわせていない。比古はずっと剣心に背中をむけたままだ。

「それじゃ……。俺はこれで……」
「剣路のやつをむかえに来たんじゃないのか?」
「剣路には嫌われてるようですから……。ただ薫殿に言われたから聞いてこいと……」
「……まあそっちの問題は、そっちでどうにかするこった。そういえば……あそこの墓参りはやってるのか? お前が作った……」
「……忘れてませんよ」

 ただそれだけ言葉を返して、その場を去った。剣心の姿が見えなくなってから剣路が姿を見せた。

「……親父が来たんですか……?」
「ああ……。でもいたんだろそこに……」
「あの墓ってなんです?」
「……奴と出会った場所だ……。行ってみるか? ここからそう遠くない……」
 
 それから……遠くない場所に剣心の姿があった。

そこは小さな墓が並んでいるところだ。剣心が初めて比古とあった場所。
 
『あんたは生きて……生きて自分の人生を選んで……。生きてここで死んだ人達の分まで……』
『自分は子供だからって……』
『恨んでも悔やんでも死んだ人間はよみがえらん』
『お前は今日から『剣心』と名のれ。お前には俺のとっておきを(飛天御剣流)をくれてやる』
 
「……師匠もここに来ていたのか」
 見ると三つある小さい石の方の墓には花がそえてある。もちろん酒も。あの時と変わらない。
 
『うまい酒の味も知らんで成仏するのは不幸だからな、俺からのたむけだ』
 
「あの時自分にもっと力があれば……死なせずにすんだんだけどな……。でも今も守るべき人達がいる。見ていてください……俺が選んだ人生(道)を……」


 静かに語りかける。だれもいないこの場所で……。
 その背中を見つめる人物がいた。剣路の姿もある。

離れた場所から剣心の後姿を見つめている。

ここの場所についてはもちろん何も聴いてはいない。

あまり過去の話は聞いていないからだ。

ただ知っているのは、人斬りの事、巴の死についてだ。

それにしても薫から聞いただけで、剣心本人からでない。

「剣路か?」

 振り向かない剣心はそのままで話しかけてきた。

「……母さんにでも言われて来たんだろ?」
「お見通しだな……」
「……ここ親父の関係か? なにも知らない」
「ああ……。小さい頃自分を守って死んだ人達のだよ」
「親父が守られたなんてな。信じられないぜ。俺はもう行く……母さんには心配ないって言ってくれよな」
 その時でも剣心と剣路はお互い顔をあわせなかった。剣路は背中に向かって言っていた。
「剣路……」
 

その場を去ろうとして剣路が一歩踏み出した時剣心が声をかけた。振り向くと剣心がこちらを向いている。

「どんなに強い人でも最初から強いものではない。積み重ねがあってこそだ。どんな事でもな……」
「そんな事わかってるさ」

 はき捨てる様に言うとその場を後にする。今度は剣路が背中を向ける。それでも剣心の視線を感じた。

「……あんまり母さんを心配させんな……」

 つぶやくように言ったが、果たして剣心に聞こえたかどうかはわからない。

 

 

natsunaさんのコメント■

これにかんしてはなかなかいい感じにできたと思います。これは星霜編の内容に衝撃をうけて考えたもの。剣路が1人京都に来てましたもの(家出なのかな?)。ラストで涙でしたね。剣心と比古の話は前から書いてみたくて、この話では比古と剣心をメインにと思って書いたものです。

 

■美咲から■

natsunaさん、小説投稿有難うございました!風花庵にはないタイプのお話でした。とっても深いお話ですから、何度も、何度も読み直してしまいました★星霜編は衝撃でしたね、色々な意味で…。

比古さま、風花庵初登場でした(笑)それでは、素敵な小説有難うございました! 2004.2.3 up!

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