剣薫萌え祭/ア行;温度/風花庵管理人@美咲 |
温度 ――あなたは、一番優しい温度を知っていますか。 「んー…っ。今日も寒い…」 薫は神谷道場の縁側で一人、あくび交じりにそう言った。 季節は冬真っ只中。 めったに雪が降らない東京でも、朝から白く重い雲が 空へのしかかっている。 「こんな寒い日は…よく母さんや父さんにひっついてたなぁ」 寝起きで乱れたみつあみをほどいて 薫はゆっくりと首を左右に倒した。 「…なつかしいなぁ」 薫はのぼっていく白い息を見ながら 脳裏で微笑む亡き父と母のことを思い出していた。 * 「かぁさまぁ」 少女はせっせと夕餉の準備をする母の袖を引っ張った。 くぃくぃっとだんだん強くなるその引っ張りに、 母は観念したように少女の頭を撫でて しゃがみこんだ。 「薫。母さん夕餉の準備をしているから お父様に遊んでいただきなさい。もうすぐできるからね。」 「だって、とぉさまは道場にいるんだもの。なんだか怖い顔をしてたの」 たどたどしい言葉使いで、ぷぅと顔をふくらますと薫は台所の床に ぺたんと座った。 「そう…お父様もお忙しいのよ。分かってね、薫。」 「…はぁい」 その少女はしぶしぶと返事をして、母の隣に並んで 母が手際よく作る料理をじぃーと見ていた。 「薫もやりたいなぁ」 などとつぶやいて、その少女は夕餉ができあがるまでに 居間と台所を何回も忙しく往復した。 夕餉が出来上がった頃には、遊び疲れて 居間でうとうとと居眠りを始める始末。 本当にオテンバな娘である。 「薫、夕餉の支度が出来ましたよ。お父様を呼んできて頂戴ね」 ぽんぽんと優しく背中を押されて 少女は眠い目をこすりながらぱたぱたと駆け足で道場へ向かっていった。 道場への道の途中で、夕餉のいいにおいに気がついて 居間へと向かっていた父に少女は、はちあわせて。 「とぉさまぁ」 少女はこれ以上ないという笑顔で父にかけよる。 その強く大きな肩に乗って、いつのまにか、父の体温の温かさも 手伝ってか、すぅと再び寝息をたてて。 「まぁ、あなた。薫、また寝てしまったのね?」 居間で温かい料理を作り終えて待っていた 母がくすりと静かに笑った。 「今宵は冷える。夕餉を頂いたら、私達も休もうか。」 少女の父は、自分の肩からそっと小さな娘を抱き上げると 自分の着ている羽織を脱いで 彼女が寒くないようにと包んでやる。 父と母は、夕餉の片付けを終えると、 親子三人の寝室に布団をしいた。 「今日は寒いから皆で寝ましょうね、薫」 もうすでにすやすやと気持ちのいい寝息をたてている少女に その母は静かに語りかけて、 布団をかけてやる。 「本当に薫は甘えん坊だな」 父もすやすやと眠る娘の髪をさらりと一度 撫でて、笑った。 「誰に似たんでしょうかねぇ」 母親が穏やかに言うと、少女は、ん…と目をしばしばとさせる。 「あら、起こしてしまったかしら?今日は寒いから皆で寝ましょうね。」 「…うん…あったかぁいね、かぁさま、とぉさま。」 今日は、いつもよりも父と母が近くにいることが嬉しいのか 少女は二人の寝巻きの袖をぎゅっと握って また眠りにつく。 母と、父も眠りにつく我が子の温かさを 感じながらまどろんだ。 * 「とぉさまとかぁさま、温かかったなぁ…」 何だか懐かしい気持ちになって あの時の少女、薫は朝の外気の冷たさにぶるっと 身震いをした。 「うーっ、寒い寒いっ。ずっとこんな処にいたら風邪引いちゃうわ」 冷え始めた身体を両手でさすりながら 薫は後ろを振り返る。 ふと、室内から漏れる温かい空気を感じたからだ。 「薫殿」 そこには、赤い髪をした、彼がふすまをあけてこちらを覗いていた。 「風邪をひくでござるよ?」 うん、と相づちをうって、 薫ははぁっともう一度白い息を吐いて笑った。 「おいで。」 彼に手招きをされて、 彼女は頬を赤く染めはにかんで、 冷え切った体で、彼が眠る布団に潜り込む。 「…やっぱり、あったかぁい」 薫は冷えた体を小さく丸めて、彼の体温を確かめる。 さらりと、彼女の父がそうしたように黒い髪を撫でて 彼は笑った。 「薫殿もあったかいでござるよ」 小さく丸まった薫の体を、剣心はその腕で抱き寄せて。 「うん、あったかぁい…」 薫は抱き寄せられたその腕の中、 あの時と同じ心地よさに包まれていく。 父さんも母さんもいなくなってしまったけれど。 今だって、寂しくてたまらないときがあるけど。 私に温かさをくれるこの人に。 私も温かさをあげたい。 昔、そうしたように彼の寝巻きの裾をぎゅっと 持ってまどろんで薫は一番優しい温度に包まれて 再び眠りに落ちていった。 温かい温かい、彼の身体に守られながら。 ――あなたは、一番優しい温度を知っていますか。 END |
★あとがき★ 風花庵というノーマルカップリングるろうにサイトの管理人、美咲と申します。 こんにちはの方もはじめましての方も 最後までお読みいただきまして有難うございます(^^) 私が選んだ御題は「温度」ということで 何から生ずる「温度」にしようかなー、と悩みに悩んだ末 こういった形になりました。 他にアイデアは2,3つあったのですが(気温とか/笑) やっぱり剣心×薫だもん、ラブラブーの甘甘がいいよ。と 一番甘かったこの小説が公開となりました。 美咲が思い描く(←妄想ともいう!)二人の『さりげない』けれども、大切な幸せの形 を皆様にも共感していただきましたら、幸いにございます。 最後になりましたが、こんな素敵企画を立ち上げてくださいました 未来さん、お疲れ様でございました&有難うございました。 素敵企画第二弾、三弾と開催できるように るろうに剣心を応援していきたいですね♪ 2005年2月19日 風花庵@美咲 |
|