*…夕立…*ピューリタン革命さまThank you★お題「雷」に挑戦してくださいました。

 

夕立

 

 

  ゴロゴロと遠雷が鳴ったと思ったら、すぐに暗くなって、雨になった。

  雷だけよりかはましかと、薫は軒下で暗雲の垂れ込めた真昼の空を見上げた。

  走って帰ろうかとも思ったが、折角買った食材やら何やらが濡れてしまう。

  夏の夕暮れは、天気が崩れやすいことなど承知の上だったが。

 

  (直ぐ帰れると思ったのが、甘かったな)

 

  品物を抱くようにして小さな溜息を吐いた。

 

  にゃあ。

 

  詮無い物思いは、その鳴き声で途切れた。

  見れば薫の足元に、泥まみれになった小さな野良猫が身体を擦り付けてる。

 

  「お前も、家に帰れなくなったの?」

 

  私と一緒だね、薫はそう言って、彼女特有の明朗な笑顔で、にこりと笑った。

  袂から手拭を出すと、子猫の身体を拭ってやる。まだ濡れてはいたが、泥は

  取れて幾分見栄えが良くなった猫が、もう一度、みゃあと鳴いた。

 

  「……雨がやむまで、一緒にいてくれる?」

 

  言いながら、薫は一人の寂しさを猫にまで押し付けるのかと、少し自嘲した。

  ……抱き上げた子猫と、空を見上げる。

  雨脚は、なかなか去る気配がない。

 

 

  「薫殿…ここに居た」

 

  暫くして、幾分弱まった雨の中。

  あからさまに、ほっとした表情の剣心が、傘を差して立っていた。

 

  「剣心」

 

  薫は嬉しくなって、彼の前まで駆け寄る。

  ありがとう、と言いかけて、目の前の肩が酷く濡れているのに気がついた。

  薫の逡巡が、一つの結論に達する。

 

  「…もしかして、走って、探し回ってくれたの?」

 

  それは半ば、希望を含んでいたのかもしれないが。

  剣心は、んん、と肯定とも否定ともつかない声を上げて、曖昧な笑みを浮かべた

 

……肯定、だ。

 

  「――やっぱりそうなのね…ごめん」

 

嬉しいけれど、申し訳ない。しゅん、と下を向いた薫に、

剣心は慌てたように声をかける。

 

「いや…薫殿その猫は」

「あ」

 

 薫が、ぱっと顔を上げ、腕の中の子猫を見た。

 

「軒下に居たら、いつの間にか足元に寄ってきてたの…」

  薫の目が、子猫の円らな瞳とあう。

  「ねえ剣心、この猫、うちで飼うのはどうかしら?」

  剣心は小首を傾げると、猫の首元に、そっと指を伸ばした

――ちりん、と鈴の音がする。

 

「…首輪?」

  「どうやら…飼い猫のようで御座るよ、薫殿。名も書いてある」

  「そ、そうか…じゃあ飼い主探さないと」

 

言いかけた薫の腕で、猫が急に身じろいだ。

 

  「どうしたの?」

 

物言いたげな様子に薫がしゃがむと、子猫はぽん、と薫の腕から飛び出した。

そのままとととっ、と小走りに走って、少し彼女から距離を置くと一度だけ振り返る。

 

みゃあお。

 

今度は少し長めに鳴いて、後は振り返らずに駈け去っていってしまった。

 

 「……自分で、ちゃんと帰れるみたい」

 

子猫から突然暇を告げられて、薫が小さく笑った。剣心は困ったように微笑んだ。

しゃがんだ薫に手を貸して、ゆっくりと立ち上がらせる。

 

「…私って、お節介ね」

  薫がまた笑ったが、今度は剣心はゆっくりと頭を振った。

 

  「――そんな事はないでござる…ただ」

 

  「ただ――薫殿は、あまりに優しすぎるだけ」

 

  だから、その優しさに甘えて、望む望まぬに関わらず、色々な者が寄ってき

  てしまうのでござろう。

 

 

  「…拙者のような、人間にさえ」

 

  剣心はそう言って、少しだけ哀しそうに笑ってから、雨に濡れぬよう、薫の

  肩を控えめに抱いた。荷物を受け取り、そのままゆっくりと、雨空の下を歩

  き出す。

 

  「………剣心……」

  薫には、濃紺の和傘の下、剣心の顔が酷く沈んでいるように見えた。

  だからつい、必死になった。

 

  「で、でも私は、子猫より剣心が傍に居てくれたらいいと思ってるわ!」

 

  言ってしまってから、剣心がそれこそぽかん、とした表情でこちらを見てい

  るのに気付き、馬鹿なことを言った、と薫は顔を真っ赤にして俯いた。

  顔同様、火照った頭で必死になって言い訳を考えている薫の耳に、くすくす

  と楽しげな笑い声が届く。

 

  「…何笑ってるのっ」

  「いや………可愛いなあ、と思って」

 

  そして見上げた彼の顔は、一片の曇りもない笑顔だった。

  咄嗟に顔を赤らめるも、慌てて思い直し、薫は頬を膨らませる。

 

  「っちょっと、どういう意味!」

  「さぁて…おお、雨がやんだで御座るよ薫殿」

 

  雲間から梯子の様な光が幾筋も差し込んでいる。幻想的な景色が当たり一面

  に広がっていた。

 

  「話を逸らすなっ!」

  追求を止めない薫は、勢い余ってぱしゃん、と水溜りに踏み込んでしまう。

  咄嗟に避けたが、着物の端に少し水が撥ねてしまった。

 

  「これは…いかんでござるな」

  「いかんって!元はといえば剣心が…っきゃ」

 

  ひょい、と彼に抱きかかえられた薫は剣心の着物にしっかりとしがみ付く。

 

  「猫より拙者を選んでくれた薫殿を、水溜りに入れるわけにはいかぬで御座

  るから」

  「・・・っもう言うな!!」

 

  あははは、と朗らかに声を出して笑った剣心の髪を、薫はぐいと引っ張っ

  た。

 

ピューリタン革命さまから頂きました!

ももうもうおうおう(落ち着こうね)おHN(←尊敬語)どおり、なんて革命的な幸せお話でしょうv剣心に翻弄される薫殿を美咲にくださぃ。緋村さん、お願い。

え?ダメ?あ、そうだよね。うんうん。え?お前なんか触れるな?出たな抜刀斎。勝負だ。

 

 

 

とぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!

 

 

――しばらくお待ちください――

 

 

 

はぁはぁはぁぁ…今回は見逃してやる、緋村ぁ!(←死にそう)

 

 

 

細かい描写に物語が目に浮かぶようでしたv

素敵なお話、本当に有難うございました。

 

 

 2004.9.20 up!

 

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