*…チャン・イーさんヨリ…* |
手をつないで見れば
「薫殿」 静かに差し出された手のひらのうっすらついていた、血のあと。 もう二度と、自分のことで血をながさせないようにしよう。 あの時、固く心に誓った。 手をつないでみれば 「やばっ!」 私はがばっと頭を上げた。 危うく畳におでこをぶつけるところだった。 「あんまり陽気がいいから・・・」 開け放した障子の向こうから、暖かい日差しが差し込んでいた。 手元にあった着物によだれが付いてないか確認して、ほっとしてまた針山か ら針をひとつ取った。 「きーんらーんどーんすのおびしめながら・・・」 眠気覚ましに鼻歌を歌いながら、針を進ませる。 母が嫁入りに着た、花嫁衣裳。 ほんの少し冷たくて、すべるような感触のする布地。 「はなよめごりょうはなぁぜぇなあくのーだろ」 私は、泣くのかしら? 銀糸で花模様に縁取られた裾を触って、私はうーんと考えた。 「泣かないわね、多分」 「何が?」 独り言に返事が返ってきたので、びっくりして私は廊下に目を向けた。 剣心が立っていた。 「がんもとこんにゃくを買ってきた」 「そうなの?」 「今夜はおでんにしようかと」 「そっか、夜は冷えるしそのほうがいいよね」 「それ、明日着るのでござるか?」 着物を指して言った。 私は慌てて丸めた。 「見ちゃだめ」 「けち」 「明日のお楽しみ」 「つまらぬ」 剣心は口を尖らせて抗議したけど。 私は、針を針山に戻した。 「・・・いつか懐かしく思い出すのでござろうか」 「ん?」 「結婚前夜におでんを食べた事とか、薫殿が婚礼衣装を縫った事とか」 「そうね・・・」 いつか。 懐かしく思い出すのかしら? 私は立ち上がった。 「今日は一緒におでん作ろうよ」 剣心がびっくりした顔をして、私を見た。 「珍しい。自ら台所に立とうなど・・・」 「殴るわよ?渾身の力を込めて殴るわよ?」 剣心は、吹き出した。 そして、私に手を差し出した。 その手のひらが、白くて何も付いていなかったので。 なんだか安心してしまった。 手を握って、私は立ち上がった。 そして、二人で部屋を出て台所に歩き出した。 「剣心」 「ん?」 「好きよ」 すごくすごくすごく。 「大好きよ」 「何を急に」 剣心は困ったように笑ってから、小さな声で言った。 「拙者も」 瞬間少し指先に力が入って、剣心の感情が流れ込んでくるような感じ がして、私は涙が出そうになった。 「ほんとに、大好きよ」 胸の中で、つぶやいた。 END |
やっぱり剣心と薫は幸せにならなくちゃ。 そう思わせてくれる、素敵な小説でした…。 あぁ、管理人冥利に尽きますです。 特に、「・・・いつか懐かしく思い出すのでござろうか」 からの数行、剣心と薫の幸せがじわっと凝縮されているようで… すごくほくほくした幸せな気持ちになりました。 美咲も、これからも幸せな二人を書いていくぞ〜!(>▽<) 20050216 |