梅散る里//智香さんより

梅散る里

 

「巴、ちょっと外に出てみないか?」

 

  普段、用件以外で外に行くことなど滅多に無かったのに、この日は珍しく抜

  刀斎が巴を誘った

  あまりに突然の誘いに巴は戸惑いながらも、嬉しく感じていた

 

  「私は構いませんが、湯冷めしませんか?」

 

  「大丈夫だよ。さ、行こう―。」

 

  そう言うと抜刀斎は巴に手を差し出し、巴は少し恥ずかしそうにその手を取

  った。

 

  ザックザックザック…

 

  もう四刻ほど歩き続けている。

 

  この雪道の向こうに何があるのかしら?

 

  巴はそう思った。

 

  夫は何も言わず自分の手を引いて雪の中を突き進んでいる。

 

  別に歩きにくくはない

 

  夫が自分より先に歩いてくれているから逆に歩きやすい。

 

  はぁ…

 

  吐いた息が真っ白になる

 

  愛用している肩掛けを羽織って来ただけだったので、肌寒かった

 

  どこに行くのだろう…

 

  そんな事を思っていると急に夫が止まった。

 

  「あ―…」

 

  顔を上げるとそこには沢山の梅の花が見事に咲き誇っていた。

 

  巴はしばし、子供のように梅に目を向けて見入っている。

 

  くしゅっ…

 

  薄着をしてきた所為か、背筋に悪寒が走る

 

  「風邪を引く。」

 

  抜刀斎は巴の肩にそっと自分が着ていた羽織を掛けた。

 

  「ありがとうございます…」

 

  「ん?」

 

  「こんなに沢山の梅を見られるなんて…何だか嬉しくて…」

 

  巴はそっと微笑んでいた

 

  笑うのが苦手で滅多に笑う事の無い巴が微笑むのは珍しい。

 

  「…君と出逢ったときもこの香りがしていた。」

 

  「白梅香…もう、一年も経つのですね。あなたと私が出逢ってから…」

 

  「そうだな、年月が過ぎるのは早いものだ…」

 

  いつの間にか、二人はちらちらと降る雪の中でそっと寄り添っていた。

 

  ―もう、血の匂いはしない。ほのかに芳るは白梅香。

 

  抜刀斎の中でまた一つ、巴に対して新たな感情が生まれる

 

  「巴…」

 

  「はい―…」

 

  「来年も見に来よう―…」

 

  「はい―…!」

 

  しばらくの間、二人はその場で梅の香に包まれていた―。

 

智香さんより頂きました、抜巴小説でした(T-T)

いやぁ、このカップリングはいつ思い出してもせつないですね(><)

智香さん、リクエスト有難うございます。

私は剣薫派なので、抜巴は書けないかもしれませんけど、

巴をからめたお話は、書いて見たいなと思っています。

 

梅の花、二人にとっては忘れられない香り。

感情をあまり表に出さない二人だから、余計に悲しくも美しいお話でした。

小説のご投稿有難うございました^^

 

2005.3.17

BACK