蒼紫×操小説

  隣に

 
 今日は太陽がまぶしいな。
  あたしはそう思った。
  時間は4時を回ったあたり。
  
  --------隣に----------
  
  「蒼紫様、隣いいですか?」
  縁側に座っている蒼紫様に声をかけた。
  「別に構わん」
  蒼紫様はそっけなく答える。
  あたしは遠慮なく蒼紫様の隣に座った。
  
  蒼紫様は時々何を考えているのかわからない時がある。
  それでもあたしは隣にいるだけで幸せ。
  
  蒼紫様は知らない。
  何日も出かけたまま帰らないとき、あたしがどれだけ心配してるか。
  
  蒼紫様は知らない。
  知らない女の人と一緒にいるのを見かけるだけで、あたしがどんなに不安に
  なるか。
  
  蒼紫様は知らない。
  あたしが作ったご飯をおいしいって言って食べてくれるだけで、あたしがど
  んなに幸せな気持ちになれるか。
  
  蒼紫様は知らない。
  般若君たちと一緒に葵屋を出て行ってしまったとき、あたしがどれだけ必死
  に探したか。
  どんなに不安になったか。
  どんなに寂しかったか。
  逢いたい時にすぐに逢えないこの気持ち。
  どんなに頑張って追いかけても届かなかったあのときのやるせなさ。
  
  でも今は違う。
  あたしは蒼紫様の隣にいる。
  暖かい午後の日差しを浴びながら、同じときを過ごしている。
  
  蒼紫様は知らない。
  「2度と俺の前に姿を現すな」
  そう冷たく言われたあのとき、胸が苦しくて苦しくて、今にも心臓が止まる
  かと思った。
  あたしはあの後蒼紫様の代わりに御頭となった。
  皆はあたしのことすごく強い娘だと思ったみたい。
  でも違う。
  あたしはあのとき、「もう蒼紫様のことを慕ってちゃいけない」
  そう思って、必死に自分を押し殺してたの。
  みんなは御頭になったあたしを精一杯応援してくれた。
  でも、やっぱりあたしにとっての御頭は蒼紫様しかいなくて。
   
  みんなはあたしのことを強い娘だと思ったらしい。
  あたしは強くなりたかった。
  でも、本当は全然強くなんかない。
   
  緋村が言ってくれた。
  「蒼紫は必ずつれて帰る」
  あたしは涙が止まらなかった。
  泣いちゃダメだって思った。
  あたしは強くなりたいの。強い娘は人前で涙なんか流さないんだから。
  頭では必死にそう思ってても、涙は止まることはなかった。
  なんであたしは泣いてるの?泣いちゃダメ。泣いちゃダメ。
  薫さんが言ってくれた。
  「よかったね、操ちゃん」
  嬉しかった。
  ただ、ただ嬉しかった。
  あたしは、蒼紫様のこと想っててもいいの?
  また蒼紫様に逢えるの?
  嬉しかったの。
  本当に嬉しくて、今まであたしのなかに溜め込んでた何かが。まるでダムが
  壊れたみたいに、涙になってでてきた。
  
  緋村はあたしとの約束を守ってくれた。
  もう1度蒼紫様に逢えた。すごく綺麗な瞳をしていた。
  あたしが知ってる蒼紫様は、確かに、帰ってきた。
  蒼紫様の家であるここに。
  
  「蒼紫様」
  「なんだ」
  蒼紫様は相変わらず無愛想。
  「今日は縁日があるって知ってました?」
  「知っている」
  「一緒に行きません?」
  あたしにしては結構思い切って言ったほうだと思う。
  「好きにしろ」
  蒼紫様の「好きにしろ」は、OKの合図。
  「どうせ行くなら浴衣にでも着替えたらどうだ。待っているのは構わんぞ」
  「じゃあ、すぐに着替えてきますから、待っててくださいね」
  
  あたしはお増さんに手伝ってもらって急いで浴衣に着替えた。
  玄関に向かうと、そこにはすっかり出かける準備のできている蒼紫様。
  「お待たせしました。さ、行きましょ」
  あたしは蒼紫様の手をとって早足で歩き出した。蒼紫様の前を歩くなんて滅
  多にないな。
  「そんない急ぐ必要も無いだろう」
  蒼紫様はいつでも冷静。でもそう言われてもあたしはまだ早足。
  普通の歩幅で歩いてたら置いていかれそうだから。
  「お前の速さで歩くから少し落ち着け」
  蒼紫様って実はエスパー?それとも、やっぱあたしって思ってること顔に出
  ちゃうのかな。
  あたしは早足をやめてゆっくりと歩いた。
  一歩一歩踏みしめるように、蒼紫様の隣を。
  蒼紫様はあたしのスピードに合わせてくれる。あたしに比べるとすごく歩数
  が少ない。でもあたしは、ちょっと蒼紫様に甘えて、ゆっくり、ゆっくり歩
  いた。
  
  「あ、蒼紫様、金魚すくい!」
  「やりたいのか?」
  「うん!」
  あたしは出店に向かって走り出した。どさくさに紛れて、蒼紫様と腕を組ん
  でみた。
  蒼紫様は振りほどきはしなかった。
  「蒼紫様、金魚すくい好き?」
  あたしはちょっと好奇心交じりで聞いてみた。
  「嫌う理由は無い」
  蒼紫様の「嫌う理由は無い」は、好きっていう意味。
  
  あたしはあちこちの出店を1つ1つ蒼紫様と見て回った。
  蒼紫様は1度もあたしの腕を振りほどこうとはしなかった。
  
  「今日は楽しかったです。一緒に来てくれてありがとう」
  あたしは帰り際に蒼紫様にお礼を言った。
  「まあかこんなに金魚がとれるとは思わなかったけど」
  あたしの手には、袋に入ったたくさんの金魚。出店のおじさんは顔を真っ青
  にしてたっけ。
  「最後まできちんと責任を持って育てろ。殺すなよ。」
  「任しといてください。」
  あたしは元気のいい返事をした。
  「蒼紫様、金魚は好きですか?」
  「嫌う理由は無い」
  好きなのか。蒼紫様、意外と動物好きだったりして。
  
  「蒼紫様」
  「なんだ」
  「あたしのこと好きですか?」
  すごいことを聞いちゃった、と自分でも分かっていた。でも、ただなんとな
  く聞いてみたくなった。
  蒼紫様、金魚は好きなんだよね?
  じゃああたしは?
  
  蒼紫様はゆっくりと、でも優しい口調でこう言ってくれた。
  
  「嫌う理由は見当たらない」

                                           END

うっきゃぁv

眠気覚ましさまから頂きましたv

原作忠実な蒼紫v操のストーリーでした。

蒼紫の言葉の本当の意味をちゃんと解釈してる

操ちゃんがすごいですね。

ずっとそばにいて、蒼紫のことを

理解しているからこそ、ですね♪

 

操ちゃんの言葉が本当に操ちゃんらしく、

蒼紫も本当に蒼紫らしく、

まるで原作をなぞっているような

気持ちになりましたッ★

眠気覚ましさん、素敵な小説有難うございました。

 

眠気覚ましさんは小説投稿フォームからご投稿くださいました!

お題ではなくても、男女カップリングのお話ならOK!ぜひぜひ投稿してくださいね^^            2004.12.29 up

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