飛べない鳥

飛べない鳥

 

「ねぇ剣心……。」

 

剣心の横に布団をしきながら薫は言った。

 

「おろ?」

 

先に布団を敷いて本を読んでいた剣心が 不思議そうに薫の方を見上げる。

 

「ね、今日は何の日か覚えてる?」

 

「今日――。でござるか?はて…。薫殿の誕生日はもう終わったし…。」  

 

クスッと薫が笑う。

何か企んでいるような目だ。

 

「ね、今日は………。ちょっと付き合って。  そうしたら何の日か教えてあげる。」

 

「全く・・・薫殿は人が悪い。今教えて欲しいでござるよ」

 

人が悪いと言って苦笑しながらも そんなイタズラっぽい薫の視線に

 

 読みかけていた本を閉じて布団に入り 薫の布団の方に身を寄せる。

 

「人が悪いって何よぉ」

 

冗談と分かっているのかいないのか くすくすと笑いながら薫も布団に入る。

 

「わたし…剣心のこの赤い髪…好きだわ」

 

薫は自分の手に届く愛しい人の髪の毛をそっとなでる。

 

「髪・・でござるか?拙者は薫殿のその綺麗が髪の方が…」

 

そういって剣心も相手がそうしたように そっと髪をなでる。

 

「そう?」

 

ちょっとくすぐったそうに言うと 薫は続けた。

 

「あとね、あなたの暖かいその目も好きだな……。  なんかね、とっても安心するの。」

 

「そ、そうでござるかな……。」

 

剣心は少し照れくさくなって薫と重なっていた目線を 少しずらす。

 

「拙者は……、そうだな、薫殿の声が好きでござるなぁ…。」

「声?」

 

そうそう、というように剣心は頷いて続ける。

 

「薫殿の声を聞くと、その声で拙者の名を呼んでくれると  '今'を感じるのでござるよ」

 

「あはは、なんか照れちゃうな……。」

 

拙者もでござる、と剣心も頭をかいた。

 

「あ……、あと薫殿の細い肩も好きでござるよ?」

 

剣心はそういうやいなや、 薫を抱き寄せる。

 

「ばっ……ばか、ちょっと剣心!」

 

「離さないでござる」

 

じたばたとする薫を見て剣心はくすくすと笑っている。

 

「もーっ。」

 

批判の声をあげながらも、 本当は嬉しいようで

しばらくすると薫はおとなしく 剣心の胸にもたれかかった。

 

「……好きだな……。」

 

剣心はちょうど自分の下にいる薫の顔を覗き込む。

 

「ん?何か言ったでござるか?」

 

「あ、ううん、なんでもないのっ。  気にしないで気にしないで」

 

「――?そうでござるか?」

 

うんうん、と必死に首をふっている薫その時ちょうど 12時を知らせる時計の音がする。

何かを思い出したように薫は 剣心の腕をといて隣の部屋へと走っていく。

 

「――?薫……殿?どうしたのでござ……」

 

そこまで言うとその声に覆い被さるように 薫が息をはずませて言った。

 

「あのね、今日はわたしにとって、一番大切な日なの」

 

そして、小さな体の後ろに隠しているつもりの ものを剣心に差し出す。

そこにあるのは、深い藍色をした 着物だった。

 

 

 

「剣心、お誕生日おめでとう。これからもずっと…  一緒にいてね?。

 

それと…この着物。着てくれると…嬉しいな。私のリボンと 一緒の藍色なの。」

 

最後の方はなんだか照れてしまったのだろう。 小さな小さな声で、言った。

剣心はただ呆然と布団から起き上がる。

 

「今日は無理言っちゃってごめんね。だって誰よりも一番にお祝いしたかったから。」

 

「薫…ど…」

 

そこまで言うと剣心は一度口篭もり、そして はっきりと今まで心の中では叫んでいた、名を呼ぶ。

「有り難う……薫……」

 

――薫……――

 

薫を力の限り抱きしめた。

 

「やだな、剣心痛いよぉ・・・」

 

薫、と初めて呼ばれ赤面しながら 剣心の胸に顔をうずめる。

月夜の綺麗な晩だった。

さっきまで降っていた激しい雨は 優しい雨にかわっていく、6月のある日。

 

――剣心私ね、

 

―何?

 

―どんな貴方もダイスキよ……。

 

                    END

ん〜。甘いですねぇ。美咲、二作目デス。一年でこんなに書き方が変わるとは。(笑)

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