アゲハ蝶

 アゲハ蝶

 

 

 

    
  ヒラリヒラリと舞い遊ぶように
  姿見せたアゲハ蝶
  夏の夜の真ん中 月の下
  喜びとしてのイエロー 憂いを帯びたブルーに
  世の果てに似ている漆黒の羽
  
  アゲハ蝶
  
  
  ヒラリヒラリ
  
  一匹の蝶が宗次郎の前を飛んでいった。
  
  青と黒がまざった羽。
  
  宗次郎はしばらく見とれていた。
  
  「何してるのですか?」
  
  そこへ美しい女性が話しかけてきた。
  
  「蝶を見てたんですよ」
  
  宗次郎はニコッと笑いながら言った。
  
  女性も笑いながら答えた。
  
  「蝶ですか。綺麗ですよね。私も蝶好きなんですよ」
  
  そう言いながら女性は頭を指差した。
  
  「ほらわたしの髪留めも蝶なんですよ。」
  
  女性の綺麗な藍色の髪には黒と青がまざった羽の色の蝶の髪留めがされていた。
  
  「綺麗な髪留めですね。もし、よろしかったら名前を教えていただけませんか?」
  
  女性はうっすらと目を開けて言った。
  
  「・・・雨宮しずくと申します。しずくと呼んで下さい。」
  
  撫子のようで蝶みたいな女性だった。
  
  宗次郎は不思議なことに初めて会うような気がしなかった。
  
  +++
  
  二人は一緒に歩いていた。
  
  「宗次郎君てすごく女の子みたいな顔してるのね」
  
  しずくがニコニコ微笑ながら言う。
  
  宗次郎は苦笑いしながら言った。
  
  「アハハ;よく言われます;」
  
  そう言ったあとまた続けた。
  
  「しずくさんもとても綺麗な顔してますね。」
  
  宗次郎がそう言うとしずくは照れくさそうに言った。
  
  「そんなことありませんよ」
  
  どくん
  なぜだか胸が高鳴った。
  一目惚れというやつだろうか。
  すごくしずくが可愛く思えた。
  二人は近くの宿に泊まることにした。
  
  +++
  
  あなたが望むのなら この身など
  いつでも差し出していい
  降り注ぐ火の粉の盾になろう
  ただそこに一握り残った僕の想いを
  すくい上げて心の隅において
  
  +++
  
  「すみませんがお部屋がお一つしか残っておりません。」
  
  女官の人がそう言うと二人は声をハモらせた。
  
  「「へ?」」
  
  二人はマジで?という顔をする。
  
  「どうなされますか?」
  
  二人はしばらく黙っていたがやがてしずくが口を開いた。
  
  「その部屋でお願いします!」
  
  +++
  
  しずくの一言で二人は一緒の部屋に泊まることになってしまった。
  あれこれ考えるのもあれなのでまぁいいかと言っていた。
  
  今の時刻は夜中の2時。
  しずくは外に出た。
  寝れないから宗次郎を起さないようにこっそり出てきた。
  
  「いい風・・。」
  
  しずくは風を浴びていた。
  しばらくそこに立っていて風をあびていた。
  しばらくするとなぜか後ろから熱気を感じた。
  
  パチパチ ゴォォォォ!!
  
  しずくがビックリして振り向くと旅館が燃えている。
  次々に人が逃げてきていた。
  たがその中に宗次郎の姿がなかった。
  しずくは水もかぶらずに火の中に飛び込んでいった。
  その頃宗次郎は出口を探していた。
  
  「くっ!すごい炎だ・・。」
  
  パチパチ ゴォォォ!
  
  火の粉が落ちてきた。
  宗次郎はとっさにしゃがみ込み目を閉じた。
  背中が熱くなる。
  そう思ったが全然熱くなかった。
  そっと目を開けると・・・。
  
  目の前にはしずくがいた。
  背中にはもろに火の粉を受けていた。
  
  「しずくさんっ!」
  
  宗次郎は少し驚いた顔をして名を呼んだ。
  
  「よかった・・宗次郎君無事で・・」
  
  しずくはうっすらと涙を浮べながら言った。
  
  「水もかぶらずにどうして入ってきたんですか!」
  
  宗次郎は問いかけた。
  しずくは言った。
  
  「宗次郎君を・・助けたかったから・・。」
  
  その言葉が嬉しかった。
  その時。
  燃えてはいないが柱がくずれてきた。
  
  「危ないッ!」
  
  しずくはとっさに宗次郎を突き飛ばした。
  宗次郎は火がついてないとこに転んだ。
  
  「・・くっ!」
  
  背中が痛んだようだ。
  
  その時。
  
  「うわぁーん!」
  
  !!
  
  逃げ遅れた子供がいた。
  
  「出口はあっちよ!その子供を連れて早く逃げて!」
  
  しずくは出口のほうを指差して言った。
  
  「しずくさんも一緒に・・!」
  
  宗次郎は言ったが・・
  
  「ゴメン・・。無理みたい。足が動かせないや・・」
  
  しずくの足の上には先ほど倒れてきた柱が。
  柱が重すぎて身動きがとれないようだ。
  
  「お願い早くいって!」
  
  しずくは叫んだ
  けど宗次郎は迷っていた。
  子供もしずくも助けたい。
  けど二人一気には無理だ。
  しずくは足を怪我したみたいだから歩けないみたいだ。
  
  「宗次郎君・・わたしあなたが好きよ。愛してる」
  
  しずくはそう言って微笑んだ
  
  「お願い・・だから・・生きて・・もう一度会えたのにゴメンネ・・」
  
  もう一度会えた―・・?
  その言葉で宗次郎は思い出した。
  このしずくという女性は・・昔自分が虐待を受けているとき、いつも傍にい
  てくれた・・
  雨宮しずくという少女だった。
  
  「しずく・・ちゃん・・。」
  
  宗次郎は名を呼んだ。
  
  「お願い・・生きて・・。」
  
  しずくの目には涙が伝っていた。
  
  「僕も・・あなたを愛してます。」
  
  宗次郎はそう言って子供を抱きかかえ出口へと向かった。
  
  パチパチ ゴォォォ!
  
  火が燃え上がる。
  
  (もう・・逃げられない。宗ちゃん・・幸せになってね。ずっと愛して
  る・・)
  
  しずくはもう自分が死ぬ事を悟った。
  (幸せに生きてね。わたしが世界で一番誰よりも愛した宗ちゃん・・。)
  
  そう心の中で呟いて地面に寝そべった。
  宗次郎は外に出た。
  
  そして子供を下ろし、今度はしずくを助けようと中へ入ろうとした。
  
  けど後ろから体を抑えられとめられた。
  
  「離して下さい!中にはまだしずくちゃんが!!」
  
  宗次郎は叫んだ。
  
  「もう無理だ!今つっこんだらお前まで死ぬぞ!」
  
  抑えている人も叫んだ
  
  「それでもいい!!また会えたのに・・好きって伝えたのに!死なせたくな
  い!!」
  
  宗次郎の頬には涙が流れていた。
  
  久しぶりに泣いた。
  宗次郎は必死だった。
  中へ入ろうとした。
  けど、皆とめた。
  
  宗次郎は大量の涙があふれ出ていた。
  
  「しずくちゃん・・!しずくーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
  
  +++
  
  翌日。
  
  火は消えた。
  しずくは結局、助からなかった。
  宗次郎がふと目をやると・・
  しずくが身に着けていたあの蝶の髪留めが落ちていた・・。
  
  「・・しずく・・ちゃん・・!」
  
  涙が溢れた。
  宗次郎は泣いた。
  思い切り声をあげて泣いた。
  自分が幼い頃から自分を支えてくれた少女。
  女性になったしずくに会えたのに・・。
  失ってしまった。
  蝶のように姿を消してしまった。
  そこに一匹の蝶が飛んできた。
  
  「・・アゲハ・・蝶・・」
  
  まるでしずくのようだった。
  
  +++
  
  それから青年はまた旅にでた。
  
  大切な女性がつけていた髪留めを大切に持って。
  
  青年は女性のことを一生忘れないためこの髪留めをずっと持つことにした。
  
  大切なあの女性の笑顔はずっと・・
  
  この髪留めと・・
  
  青年の心の中に永遠に・・
  
  +++
  
  荒野に咲いたアゲハ蝶
  揺らぐその景色の向こう
  近づくことはできないオアシス
  冷たい水をください
  できたら愛してください
  僕の肩で羽を休めておくれ
  
  ”アゲハ蝶” sung by ポルノグラフティ
  
                                   E
  ND

                

ミユさんから頂きましたv

しずくちゃんと宗次郎くんの物語でした。

 

何だかアニメを見ているようでした!

宗次郎が声をあげて泣いて。

剣心のように大切な人を亡くしながらも

また旅を続けるんですね。

 

宗次郎君には

本当に

幸せになってほしいですネ。

 

ご投稿有難うございましたv

 

 

2004.12.5 up

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