雨の降る日 <空夜優月さんより>

雨の降る日



 

  六月
  梅雨の時季
  今日も雨が降っている
  
  
  会津にある一つの診療所。
  そこにはあいつがいる
  雨の日は決まって窓辺にいる
  そしてとても悲しげな顔をしている
  
  
  最初は口うるさい女だと思った
  でもしばらく一緒にいるうちにある事に気づいた
  まさかこんな気持ちになるなんて…
  
  
  
  ーーカチャッーー
  
  「あら、いらっしゃ…なんだ、あんたか…。」
  「なんだはねーだろ!わざわざびしょ濡れになって来たってのによ!」
  「誰も来てくれなんて頼んだ覚えはないわよ!」
  「けっ、相変わらずだな、女狐。」
  「よけーなお世話よ…。」
  
  いつもと変わらないこの会話。
  進展がないこの会話。
  
  (あーあ、まただ。どうしてこうなんだろうなー…。)
  
  こんな会話をするためにここに来たわけではないのに…
  左之助はうつむき自分の発した言葉を悔いていた
  すると頭の上に何かフワッとしたものがのった
  少々驚いて上を見るとそこにはむすっとした顔をして湯のみを差し出している恵の
  姿があった。
  
  「早く頭拭いて、これ飲みなさい。風邪でもひかれたらこっちが困るのよ。」
  「えっ、あ、ああ。サンキュ…」
  
  湯飲みを左之助に渡すと恵は、自分の机につき左之助の前に患者用の丸椅子を差し
  出した。突然の行動にわけの分からない左之助。
  
  「何…?」
 
  「いいから座んなさい。来たんなら右手診てあげるわよ。」
 
  「右手…?」
 
  「そうよ。あんたの事だからどうせまた喧嘩でもして腕に負担かけてるでしょ。」
 
  「ぐっ…」
 
  「やっぱり…。何でいう事聞かないの、あんたは。」
  
「しょうがねぇだろ。相手が喧嘩売ってくるんだ。売られたら買うのが当然だろ?」
 
  「そんなんじゃいくら治療したってなおりゃしないわよ。」
  
「だってよー…」
  
「いいから早くここ座って!私忙しいんだから」
  
「へいへい…」
  
  恵の言うがままには左之助は丸椅子に座り右腕を恵に差し出した。
  その腕に恵の暖かな手が触れる。
  その瞬間、左之助は少し頬を赤らめた。
 
  目をチラッと恵のほうに向けるとその顔はますます赤くなる。
  さらっとした黒髪。ほっそりした物腰。
  左之助は思わず抱きしめたくなる衝動を必死に抑えた
  そんな時恵から突然の質問が飛んできた。
 
  
  
  
  「ねぇ、どうして毎回雨の日に来るの?」
  
  
  
  「えっ…。」
 
  恵のいきなりの質問に左之助は驚いた
  恵はゆっくりと顔を上げ、真剣な目で左之助を見据えた。
  めったに見ない恵の真剣な目。
  そらす事のできない真剣な目。
 
  「え、え〜と…あーー…」
 
  あまりに唐突すぎてうまく言葉が見つからない
  それに言葉が見つけられても言えるはずはない
  絶対に言えない
  言えるはずはない
  恵が寂しそうな顔をしているから心配だなんて…
  そんな左之介が出した答えは…
  
  「な、何言ってんだよ!そんなん決まってんだろ!雨の日、ここは客が少ないから
   な。待たずにすむから楽なんだよ。」
  
  左之助が返した返事は全く思ってもいない事
  恥ずかしさかとんでもない事を口にしてしまった
  
  (な、何言ってんだ、俺はーーーーーーー!!!!)
  
  左之助は心の中でひどく後悔した
  そ〜っと恵の方を見るとその目は先ほどと違って恐ろしい目へと変わっていた
  
  「そう…」
  
  恵はそう言うと左之介から手を離し、左之助に背を向けた
  それは見るからに悲しみに満ちているようだった
  その切ない背中を見て左之介は心臓が思い切り握られた気持ちだった
  
  そして左之助は何かを決心した
  意を決したように大きく息を吸って恵のほうを向き話しはじめた
  
  
  
  「ごめん…ちがうんだ。俺、そんな事思ったことはねぇ。俺が雨の日にここ
   に来るのは…お前が心配だからだ。雨の日になるとお前必ず窓際にいる
   だろ?その時に見るお前の顔がなんか寂しそうみたいな感じで…。つ、
   つまり、何がいいたいかっつーと、お、俺はおまえのこと…。」
  
  
  その後の言葉につまる左之助
  だがここまできて引くわけにはいかない
  もう一度心に決意を固めた左之助は口を開いた
  
  
  「お、俺…お前が好きだ…!」
  
  
  沈黙が流れる
  左之助の心臓は今にも爆発寸前
  緊張のせいか体が震える
  だが、それは目の前にいる恵の姿で解けた
  笑っている
  涙を流しながら
  
  「え?な、なんだよ。お前何泣いてんだ、しかも泣きながら…」
  「ふふ…嬉しいのよ」
  「へ…」
  「だけど残念ね。あんたの読みははずれよ。私は人を待ってたの。」
  「はぁ?」
  「あんた本当の馬鹿?つまり雨の日に私が待ってる人。あんたよ、左之助。」
  
  
  わけの分からない左之助に恵は追い討ちをかけるように左之助の耳で囁いた
  その瞬間左之助は恵を抱きしめた
  満面の笑みを浮かべながら
  そして恵もまた幸せに満ち足りた顔で左之助を抱きしめた
  
  
  その後雨の日も晴れの日も一日も欠かさず恵の診療所に来る左之助の姿を誰もが見
  るようになった。
  あの時恵が囁いた言葉とは…
  
  
  
  「私も…左之助が大好きよ…」
  
  

 

 

 

 

 

                                           END

空夜優月さんからご投稿いただきました、雨の降る日でした。心があったまる作品ですね!

恵さんが窓際で寂しそうな顔をしていたのは、実は人を待っていたからなんですね。

しかもその待ち人というのがその寂しそうな顔を心配して、雨の日に診療所を訪れていた左之助

だなんて…!本当ロマンチックです!

ここでぇ大ニュースですよっ★優月さん、サイト作りを考えていらっしゃるそうです。

美咲も今から楽しみです〜^^

 

ステキな小説有難うございましたvこれからもよろしくお願いいたします。

 

優月さんは小説投稿フォームでご投稿くださいました。

お題なども用意していますので、ぜひご投稿ください^^

 

                                            2004.10.9

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