<チャン・イーさんより>

初雪

その日は、朝から冷たい小雨が静かな音を立てて降り続いていた。

 

  抱き寄せようとした手を、私は軽く叩いた。

 

「んだよ」

「折角の一張羅、しわにされたらたまんないわ」

 

  ぶうたれた顔の左之助を放って、私は鏡台へ顔を向けて襟を直した。

 

  「この半襟だって、今日初めておろすんだからね」

  「へいへい、よくお似合いですよ」

 

  ごろん、と横になった彼が言う。

 

  「ちょっと、あんたも今日はちゃんとした格好なんだから、しゃんとしなさいよ」

  「雨、やむかなあ」

  「どうかしらね」

 

昨日は、良い天気だったのに。

 

  「でも、雨降って地かたまるって言うから、雨の方がおめでたいっていうわよ」

  「そりゃ、負け惜しみだろ、雨に祝言だった奴の」

  「負け惜しみね」

  「そ、負け惜しみ」

 

そっと紅指で唇をなぞったひさしぶりのまともな化粧だ。

  鏡に映った顔を見て、ちょっと満足した。

 

「俺らはさ、朝から晴天がいいよな」

「そう?大雨で結構よ。雷も二三発落ちてくれると尚良しね」

「なんだよ、そりゃ」

 

  私は軽く笑って、白粉と紅を巾着にしまった。

  剣さんに恋心を抱いていたのがずいぶん昔のことに感じる。

 

「いま、剣心の事、考えてたろ」

 

  ふいに左之助が言った。

 

  「別に」

 

  帯の位置を確認しながら、応えた。

 

  「・・・今でも」

 

  左之助は、言いかけて口をつぐんだ。そして、私に背を向けた。

 

  「今でも、何?」

  「何でもねえ」

  「今、私が好きなのは、あんたよ?」

 

  彼の向うの雨景色を見た。

  小雨だった雨は、いつしかみぞれになっている。

 

  「・・・確かに私と剣さんは似た部分があるから惹かれたけど、

  私と剣さんは、お互いを癒したり救う事なんてできないのよ」

 

  「・・・・・」

  「剣さんには薫ちゃんじゃないとだめなのよ」

  左之助は、起き上がってまっすぐに私を見た。

  「私に左之が必要なように」

 

  いきなり、左之助が私を抱きしめた。

 

  「・・・ほんとよ?」

  「知ってる」

 

  私たちは、ときどきこうして本音を心から零れださないと、

不安になる。

  少し切なくなって、私は目を伏せた。

 

  窓の向うで、今年はじめて見る雪が、ちらちらと舞い降りはじめていた。

 

                                 END

チャン・イーさんより頂きました。

剣心と薫殿の祝言へむかうふたり、かな?

私も同じシュチュエーションでsometime or otherという

小説を書きましたけれど

書き手が違えばこんなに物語りに違いが出るのですね…!

チャンさんの小説、本当に素敵です!

 

「そう?大雨で結構よ。雷も二三発落ちてくれると尚良しね」

 

のセリフ、恵にぴったりですよね(笑)

原作の恵そのまんまです!萌え!

 

チャンさん、素敵な小説有難うございました。

 

2005.2.26

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