今は未だこのままで【maki様より頂きました】 |
『今は未だこのままで』 「ねぇー左之助ぇーちょっと来てー!!」 薫は自分のちょうど前の縁側で寝そべっている左之助を上から呼んだ。 「あー…。。って嬢ちゃんなんてとこ登ってるんでぇ?!」 振り向いた左之助の目には自分より幾分高いところで 半分宙ぶらりんの状態になっている薫が飛び込んできた。 「ちょっと探し物をね…っとあぁーっっ…」 「馬鹿やろ、動くなって!」 更にバランスを崩し、薫の下にあった踏み台が波のように揺れる。 「わっ…」 「危ねっ…」 とすっ。間一髪のところは左之助に受け止められた。 薫も体術の勉強はしているので、受身も取った。 とは言え、やはり、二人とも痛かったらしい。 「ってぇ…おい嬢ちゃん大丈夫か?」 「イタ…タ…だっ大丈夫…」 『大丈夫』だと確信すると左之助は薫の頭を押さえつけ 「危ねぇだろ!」と薫を叱る。 あんなとこ登るんだったら俺を呼べ、俺をと 更に薫の頭を押さえつける。 「へ…え案外優しいんだ左之助って」 押さえつけられながらも薫は 左之助に言った。 薫なりには『ありがとう』を込めた言葉だった。 「案外じゃねぇーよ」 左之助にもそれが分かったのか 少しだけ視線をはずした。 「あれっ照れてる?もしかして」 「だーっ。いいから嬢ちゃん今度から高いとこには俺を呼べよ」 ごまかしを含め、もう一度左之助は念を押した。 「分かった。でもほんと…左之助って本当のお兄ちゃんみたいよねっ…私時々思うの」 押さえつけられた頭に自分の手を重ね、ふふっと薫は笑う。 大きな彼と比べれば小さい薫の手と左之助の手が時々優しく触れ合う。 「…お兄ちゃん…ねぇ」 めったなこと言うんじゃねぇよ、と左之助は薫の頭から手を離し 薫へ向かって拳をぶつけるフリをする。 それをひょいっとよけ、薫は左之助の右手をつかまえる。 「弟みたいって時もあるけどねっ…今みたいに…」 捕まえた手をぴんっと指ではじいて薫は左之助をしばしじっと見る。 「おいおい弟はねぇだろ…」 弟っつーもんは弥彦でいいんじゃねぇのと左之助は視線をそらしながら言う。 「あら、弟は二人いてもいいのよ?」 先ほどじゃれあって少しくずれた髪を整え、薫は心底楽しそうに笑った。 「弟ねぇ…俺には妹と弟がいるが…九歳んときに置いてきちまったからなぁ」 無邪気に笑う薫にどぎまぎし、 視線をそらしたまま少し遠い目をし、左之助はつぶやく。 「へぇ…初耳ね?年、離れているの?」 「三つ違いの妹…今十六。だったかな」 思い出すのが億劫なようで左之助はいつもの癖で 頭をぽりぽりとかく。 「あたしとあんまり変わらないねぇ?その妹さん」 「ん…あ、あぁ」 「寂しい?」 「別にそうでもねぇけど」 普段自分のことをあまり話そうとしない左之助が珍しく答えてくれるので 薫は興味津々と言った様子で矢継ぎ早に質問を続ける。 そんな薫に圧倒されながらも左之助は嘘偽りなく、とんとんと答えていった。 母親のこと、喧嘩っ早い父親のこと、妹のこと、自分が家を出てから生まれた弟のこと…。 「…まぁこんなこった」 「…左之助やっぱり寂しいでしょ?」 一通り話が終わったあとで薫は無邪気に左之助に問うた。 「…まぁ多少はな」 薫には今家族がいないことも考えたが、自分としては もう家を捨てたわけではないが、家を出た身。 だが、小さい兄弟のことは多少、気になるのだ。 「ねぇ左之助。じゃあさ、私のこと東京での妹だと思っていいよ。」 満足をしたような顔で薫は自分の方を指差して言った。 「妹…だぁ?」 馬鹿野郎。こいつは何にもわかっちゃいねぇ。 ふざけた顔をしながらも 左之助はこの目の前にいる薫の鈍さに ただ苦笑するしかなかった。 「嬢ちゃんを妹だと思うのは到底無理な話だぜ」 嬢ちゃんは嬢ちゃんだからな、と また頭をぽんと叩いて左之助は立ち上がった。 「じゃあ私はなんなのよ?」 顔を膨らしながら薫は左之助を睨みつけた。 「あ――…?」 決まりが悪そうに左之助は薫を見下ろした。 その答えをまだか、と待っている薫を。 「ねぇお姉ちゃん?それともっ」 薫は待てないのか、さらに左之助を急かす。その様子を見て 左之助は覚悟を決めたかにようにすぅと息を吸い、 ふいに一瞬緊張した面持ちであまり大きくない声で言った。 「大事な女」 左之助は天井をそっと一度見て 真剣だった顔を崩しにかっと薫に向かって笑い、少しはにかんだ。 左之助が笑うまでなんの反応も示さなかった薫は 我に返ったように叫んだ。 「え―…?ウ…!?」 嘘、と言うはずだったろう薫の口を 左之助は片手で押さえた。 (今は未だ嘘でいい) 「馬鹿やろ、本気にするんじゃねぇよ」 あいていた方の手で 頭を軽く押し、また、笑う。 「っ苦しいってば!もー左之助!びっくりしたでしょっ。」 「そりゃびっくり損だねぇ、嬢ちゃん」 (今は未だこのままでいい) 「薫殿―…左之―…ご飯が出来たでござるよー」 「ほら、飯だとよ。俺は先行ってるからよその散らかった荷物 がんばって片付けろや」 片手をひらひらと泳がせて 左之助はある意味緊張した空間を後にした。 「まっ待ってよ左之助っー!!」 その空間から 左之助の気持ちに気づいてか気づかずか、 何もなかったような顔をして出てきて、左之助の隣に並んだ。 (今はこれでいい。未だ、、) END |
〇あとがき〇 やばいです。これにて左×薫 『今は未だこのままで』が終了。自分で書いてて分からなくなっちゃいました(死)もう小説書くのやめようかなっていうかこれ小説じゃないじゃんっっ美咲ちゃん本当にこんなの送りつけてごめんねっ。 〇美咲から〇 maki様から頂きました左×薫小説です。私は左×恵が好きなんですけどわりあい何でも読めるんです。 Maki様から頂けて本当に嬉しいですよー。こんなへぼサイトにこんな宝物を…vv素敵な小説、二度もありがとうございました!! |