陽炎 〜第一章〜

陽炎《第一章》

「恵お姉ちゃん、いってきまぁーす」

「てきまぁーす!!」

 

玄関ですずめとあやめは余所行きの着物を着てはしゃぎながら言った。

 

「はいはい、気をつけて行ってくるのよ、すずめちゃん、あやめちゃん」

 

すずめとあやめを送り出してから恵はシーンとした診療所の縁側に座った。

 

「ふふ、あのおちびちゃん達がいないとこうも静かなのね…ここって。」

 

今日、すずめとあやめは玄斎先生の古くからの友人の家へ招かれ、

家を留守にしているのだ。

 

「はぁ…。」

 

最近、1人になることなんてなかった。

周りには必ず、たくさんの仲間がいた。

会津戦争で独りぼっちになってから、ずっと。

ここにくるまでひとりぼっちだった。

 

「ひとりぼっち…きごうか」

いつも自分の周りにいる仲間を思い浮かべ恵はふっと笑った。

 

「今はみんながいてくれるものね…」

 

 

 

恵にとって、もちろん剣心も、薫も弥彦も左之助も…大切な仲間だが。

すずめやあやめには幼いころ無くした懐かしさがある。

 

 

 

自分が失った家族という暖かさがある。

恵にとって、すずめとあやめの二人は

家族のような存在だったのだ。

 

「さて…と。買出しにでもいってこようかしら」

 

そういうと恵は立ち上がり、町へと向かった。

 

*

 

 

 

最近、左之助はよく診療所に手伝いとしょうして診療所に居座っていた。

恵としては、薪を割ったり、運んだりと

恵や玄斎先生には無理な仕事をこなしてくれるので内心、感謝していた。

表向きは、そうはいかないのだが。

そんなことを考えながら恵は呉服屋の前を通りかかっていた。

 

 

「あら…いい色…。」

 

恵が目にしたのは艶やかな草色をした男物の着物だった。

 

「剣さん…には似合わないわね、ちょっと。」

 

その色の着物をはおった剣心を想像し、苦笑する。

 

「弥彦くんにも・・ちょっと渋すぎるわねぇ・・・。」

 

「左之助…は…。」

 

 

 

左之助は案外似合うかもしれない。

恵はそんなことを考えている自分にハッとする。

 

「何よ、あいつは夏でも冬でも同じ服ばっかり着てるじゃない・・。」

 

それがいけないのだ。医者として、それは許せない。

医者として…も。だ。

 

「しかたないわね…。ご主人、これおいくらかしら?」

 

 

 

「お目が高いね。お安くしておきますよ?好い人に贈り物ですかい?」

 

「!!。いえ、そんな・・・。」

 

本人も気づかないくらいに恵の頬はほんのり赤く、染まっていた。

 

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