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陽炎 〜第二章〜 |
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陽炎《第二章》 「ん…?」 「半鐘…ですかねぇ。」 買った着物を受け取りながら恵は火事をつげる半鐘の音を聞いた。 ――カンカンカンカンッッ!!―― 「本当……近い…」 「あぁ、もう冬だから最近火事が多いんですよね。」 恵は医者だ。火事は人事ではない。 「ご主人、今日は御親切にどうもありがとうございました。たくさんまけてもらっちゃって。」 「いやいや、また来てくださいよ、今度はその着物の主と一緒に。」 「……ええ。」 苦笑いとともにほんの少しだけ恥じらいの色を伺える顔で、 恵は笑い、この呉服店をあとのする。 ――カンカンカンカンッッ!!―― 「――本当、近いみたいねぇ…。キャッ!!」 ――ドン! 「ちょっと気をつけなさいよ!!」 診療所へ早く帰って患者さんの対応を考えなくては、 とそう考えていた時 恵に、図体のでかい男がぶつかったのだ。 「あぁ、すみません…。なにせ、あの安西家が火事だっていうんで。」 「あ…安西さんの家…?」 「それは間違いないんですね?!」 恵はその男に近寄り念を押した。恵の顔は一瞬にして蒼白になる。 「え…ええ。間違いありません。私は新聞記者ですから。」 「――っっ!!」 恵は血相を変えて安西家へと走り出す。 ――安西家・・・ それは今日あやめとすずめが向かった場所そのものだった。 「あやめちゃん・・・すずめちゃん・・・大丈夫・・よね?」 恵は戦争で家族と生き別れになった。あの戦火のなかを一人で逃げ回った。 一人で。たった一人で。恐かった。 誰もいなかった。ただただ泣いていた。 『めぐみお姉ちゃん・・・・』 恵の脳裏にふっと二人の顔が浮かぶ。 「あんな思いを…あの子達にさせるものですか……絶対、絶対に……!!」 全速力で走り、安西家の前に立った恵は呆然とした。 「っ…はぁ…はぁ………」 燃え盛る炎。逃げ惑う人々。おもしろがって火事を見物している人。 そしてそれを制御する無数の警官。 「あ…署長さ…」 恵はやっとの思いで人ごみをすり抜け 顔なじみの署長へ声をかけようとした。 恵を見つけた署長はひどくあせった様子で何か叫んでいる。 「高荷さ…… が………の…かに…!!」 ―すずめちゃんとあやめちゃんがまだ建物の中に― 恵は我を忘れ気づけば水を頭からかぶり 気がつけば燃え盛る家の中へと走り出していた。 挿絵募集中デス |