君の声が聞える

 

『君の声が聞える』

 

 

誰か、教えて。

この暗闇から、抜け出す術を。

深い深い暗闇に足を取られて

もう前にも後ろにも進めなくなっていた。

見える、一筋の光。

でも、その光は遠くて儚くて、確かなものかさえ分からなくて。

人知れずこぼれるしずくに

また足元がすくわれていく。

昔誰かが言っていた。

 

全て伝わる想いなどない。と。

 

傍に、声の届く所にいるのに。

何故、伝わらないんだろう。

誰か、教えて…。

 

 

 

 

                           ◆◆◆

 

「体は全くの健康体…。原因は…分かりません。」

剣心や、弥彦、左之助。そして薫…皆が集まった診療所で

恵はそう口を開いた。

 

「…治るのか。」

 

左之助も何かを押し殺したような、低い声で言う。

 

後ろを向いていた、恵がゆっくりと

皆のほうを向いて。

 

「…わからないわ。」

長い沈黙のあと恵はどこか遠くを見ながらつぶやいた。

 

 

 

薫の声が出なくなった。

突然。

何の前触れもなく。

何の予感もなく。

 

…薫の声は奪われた。

 

あの診断からもうすでに一週間がたとうとしていた。

日常生活になんら変わりはない。

朝起きてみんなで朝食をとって。

いつもどおりに薫は弥彦に稽古をつけて。

 

当たり前の日常。

ただ、違うのは。

ただ、足りないのは。

明るく透き通った薫の声だった。

 

「薫、稽古つけてくれよ!剣心相手にしてくんねぇんだ。」

 

「おろ…仕方ないでござろう、これから買い物に行くのでござるから。

 それに、おぬし今日二回目の稽古ではござらんか…。

 薫殿、すまんが弥彦の相手をしてやってくれるでござるか?」

 

二人の声がして

薫はゆっくりと振り返った。そ

そのいつもと全く変わらない様子に

剣心は笑顔を保ちながらも内心、心が押しつぶされそうになる。

 

「それじゃあ、拙者は行って来るでござる。」

「おぉ。」

 

いってらっしゃい、そう口角を動かして

薫は手を振った。そして着替えるから、と弥彦を自分の部屋から追い出す。

 

弥彦も、剣心も平静を保とうとしている。

でもそれは、上辺だけしかなくて。

 

薫は、声が出なくなってからも

けして人前で涙を見せるようなことはなかった。

診断の時でさえ小さな手を膝に重ねて。

震えを必死に止めて。

黒く潤んだその瞳の焦点をけして揺るがすことなど、なかった。

 

それが、はたから見ていて、一番つらいということを、薫は知っているのだろうか。

 

道場に、弥彦の声が響く。

いつも聞える師匠の喝は聞えない。

 

刀を振るたびに弥彦は言いようのない悲しさやもどかしさを感じる。

それでも、それを追い払うように

薫に悟られぬように

弥彦は精一杯声を出し続けた。

 

「やぁっ!めーんっ!」

 

その声は

静かな道場中に唯一、響き渡った。

 

 

END

さぁ、これからどうなるんでしょう!昔書いていたもののリメイクです。風花庵剣心v薫初?シリアス長編です。良かったら感想とかBBSで聞かせてくださいねv       2004.4.3 up

BACK                                    NEXT