君の声が聞える【第三幕】隠れた泪 |
『君の声が聞えるー第三幕―』 (皆、心配してるかな…) 剣心に、笑顔でおかえりなさい、と合図したあと。 皆が寝静まった深夜、 薫は、誰もいない夜の道を あてもなく、ぼんやりと歩いていた。 ある場所へ行った、帰り道だった。 夜風が冷たい。 先ほどこっそりと泣いた跡がひんやりと感じる。 声が出なくなってもう15日あまり。 剣心や、弥彦、左之助たちには 余計な心配をかけまい、と 出来るだけ笑顔で頑張ってきたが 精神的に、薫には限界がせまってきていた。 剣心の、変わらない優しい笑顔。自分の体を気遣った料理。 弥彦の、憎まれ口を叩きながらの自分への気遣い。 左之助の、不器用な優しさ。 恵などは、忙しい診療時間の合間に書物などを読んだり 知り合いの医者にかけあったりもしてくれた。 その他、皆の気遣いが、薫にとっては身にしみるほど嬉しかった。 昔は、広い道場にぽつりと一人で。 寂しくて、広い部屋の隅で一人、泣いた事もあった。 でも、今は自分を心配し、気遣ってくれる人達が大勢いる。 (……もう少し歩いたら…帰ろう) 昔は、広い道場にぽつり、一人で。 でも、今は大事な人達がそこにいる。 だからこそ、今は神谷道場では、泣けなくて。 (私の声、このまま戻ってこないのかな…) そう思うと、また涙が溢れてくる。 さっき、思う存分泣いたはずなのに。 これで、また明日から笑顔で頑張れると思ったのに。 薫の気持ちとは裏腹に 温かい涙が、一筋、また一筋と、薫の頬を伝って濡らしていく。 (目が腫れたら、泣いたってばれちゃうじゃない、私の馬鹿…) 懸命に涙を拭って、頬をぱんぱんとたたいて。 薫は家への道をたどった。 (早く、帰らなきゃ…) これ以上心配はかけまい。自然足も速くなる。 あと少しで神谷道場へつくところで 薫は男の悲鳴を聞いた。 驚いて、身構え、周りをじっくりと見回す。 続けて、眼前に血を流した男が転がり出てきた。 息はあるようだ。 はぁはぁ、と息を荒げ、右の肩を左手で押さえている。 「あ、赤べこの『燕』とかいう嬢ちゃんが、変な奴らに…お、俺はたす…けようとして…」 (何ですって?) 薫の背筋に寒気が走る。 薫が一歩その男に歩み寄ると、男はびっくりした顔で薫の顔を見上げた。 「…!よ、良く見たらあんたぁ、神谷道場の剣術小町じゃねぇか! こ、こっちだ…ついてきてくれ、は、早く!!助けてやってくれ!」 (燕ちゃん…無事でいて…!!) 薫はその男のあとを、無我夢中で追いかけた。 時刻は既に、深夜。 その男の足音と、薫の足音だけが 夜の街に響いていた。 流浪人日和の夢月閏さんが、挿絵を書いてくださいました。ありがとうございました! ※流浪人日和へはるろうにリンクから飛べます★ぜひ遊びにいってくださいね。 END |
第三章でした。次の四章はもうできてます(^^)♪これから薫殿にどんな困難が待ち構えているのでしょうか?果たして燕ちゃんは無事なのでしょうか?続きはまた4章で…。 2004.8.22 【ご感想お待ちしております】 |