マシュマロ <mikuさんより> |
マシュマロ 高い空にやわらかい雲が浮かぶ。 窓は心地いい風を通していた。 「食べる?」 そう言って恵が持ってきたのは、涼やかな透明の器に乗せられた不思議な菓子。 「何だこれ?」 「マシュマロ。」 マシュマロ。初めて聞くけど、いかにも甘そうな名前だ。 「この前急患で来た患者さんがくれたの。 わたしはあんまり美味しくなかったけど・・・。」 「美味しくないもん人に勧めるなよな。」 俺は、ようやく包帯の取れた右手を閉じたり開いたりしながらつぶやく。 「好き嫌いなんてあった?」 クスクス笑いながら、恵はひとつつまんで俺に差し出す。 前だったらこいつに笑われるたびに ガキ扱いしやがって− 悪態をついていたけど、今はもう慣れた。 恵がそれで楽しそうに笑うんだったら まあいいか と思う。 その手から受け取ったマシュマロを、そのまま口に放りこむ。 噛む必要がないくらいやわらかくて、口の中ですぐに溶けた。 「美味しい?」 「・・・甘い。」 「美味しいかどうか聞いてるの。」 そう言って恵はまた笑う。 俺は、恵と器の中の色とりどりのマシュマロを見比べる。 鮮やかな朱色。桜のような薄紅色。雪のような白。 その中からふたつつまんで、また口の中に放りこむ。 「なぁ。」 あっという間になくなっていくマシュマロの感触と共にふと感じたことを その横顔を見て言葉にする。 「お前、これに似てる。」 「・・・は?」 恵は二、三度まばたきして俺の顔を覗き込んだ。 「似てるって、何が?」 「色・・・と、やわらかいとこ。」 「殴っていい?」 「いいわけねぇだろ。」 何それ、と不満そうに言いながら恵は肩にかかる髪を払った。 色とやわらかさだけじゃなく 触れてもすぐ離れていくようなところも似てる。 そう思った。 「ほめてるんだぜ?」 恵が拗ねたような顔をするのは珍しくて、今度は俺が笑う。 「お菓子に似てるなんて言われても、嬉しくないわよ。」 「いいじゃん、美味いんだから。」 「わたしは美味しくなかった。」 怒ったときのくせ、唇をとがらせて、恵は後ろを向いた。 いつもからかわれるのはこっちなのに。 立場が反対になったのがおかしくて 俺は笑ったまま、その後ろ姿を抱きしめる。 「・・・もう左之、笑いすぎ。」 「いつもは俺がからかわれてんだから、たまにはいいだろ?」 まだ拗ねている恵を抱きしめたまま 手許の器からマシュマロをひとつ取った。 白いマシュマロは指先でもふわふわとやわらかくて 俺はそれをまた口に入れる。 マシュマロが溶けていくのと、恵の頬に口づけるのと その短い時間が少し長い気がした。 白い恵の頬はやっぱり冷たかった。 その白にすこし朱が差して、俺の方に向いた恵と目が合って 今度は頬じゃなく唇に口づける。 「・・・やっぱ似てる。」 「バカ。」 「バカバカ言うな、マシュマロ。」 「やっぱりほめてないじゃない。」 額をくっつけ合ったまま言い合って、そして唇を何度も重ねる。 溶かされずに残ったマシュマロだけが じゃれあうふたりを見ている。 涼しくなった高い空に やわらかい風が浮かぶ。 マシュマロに似た形をして 甘い香りのする部屋の窓の外を、横切っていった。 END |
はぁぁぁあぁ。Mikuさんから頂きました、さのめぐ小説でした。皆様いかがだったでしょうか。とっても可愛らしいお話で、読んでいてとても幸せな気分になりました。恵サン、マシュマロなんですね。ふわふわしていて口の中ですぐ溶けてしまう なんだか儚いけれど、幸せをくれるマシュマロなんですね(熱弁)口付けの描写がなんともいえず、想像してにやにやしてしまった危ない管理人です。Mikuさん素敵な小説、ありがとうございました♪ 2004.3.13 up |