*…土方真琴さんより…*

夕暮れ時の虫の声

 

チリ…ン、リーン、リーン…。
  
  「何時の間に、虫の音が変わったのかしら…?」
  
  一日の診察が終わり、気が付けば窓から、秋の気配を運ぶ風が吹いてきた。
  
  「もう秋ねぇ…。」
 
  窓辺に佇み、朱に染まり始めた西の空を眺めて、女医は呟く。
  
  「お〜い!女狐〜、いるか〜?!」
 
   恵の静かな時間は、あっけなく破られた。
  「おい!居るなら返事位しやがれ!」
 
   ニュッと窓から顔を出した、赤鉢巻の大柄な男が、不機嫌そうに言い放つ。
 
  「何よ、相変わらず騒々しいわねぇ…。それで何の用なの?」
  「おめぇこそ、相変わらず愛想の無い女だなぁ。」
  
   少しふてた様な左之助に、恵は溜息混じりに言う。
  
  「あんたに愛想を振ってどうするのよ。今日はもう、治療をしたでしょう?一体、
  何しに来たのよ?…あっ、そうか、あんた御飯を食べに来たのね?!」
 
  呆れた様に見詰める恵の言葉に、左之助はかぶりを振る。
 
  「違うぞっ!今日はいい物を持ってきてやったんでぃ!」
  「いい物?あんたが?」
  
   驚いて目を丸くする恵の目の前に、左之助は虫篭を差し出した。
  
  「これが、いい物なの?何、これ?」
  「この中には、鈴虫が入ってんだぜ。今捕まえてきたばかりだから、活きがいいぞ
  〜!」
   得意気に胸を反らせる左之助は、まるで大きな図体をした子供だった。悪戯っ子
  の様な顔をする左之助に、恵は噴出していた。
 
  「何がおかしいんでぃ?!」
  
  恵に笑われ、左之助は途端に不機嫌になった。
  
  「ごめんなさい、あんたの顔を見てたら、つい…。笑って悪かったわ…(プッ!)。」
  「おい!俺に喧嘩売ってんのか?」
  「何言ってんのよ、私は医者よ。元喧嘩屋に喧嘩売ってどうするのよ!」
  
  リ〜ン、リ〜ン…。
  
   左之助から虫篭を受取った後、一声も発しなかった鈴虫が、俄かに鳴き出した。
 
  「あら、鈴虫が女を苛めるなって、言っているわよ。」
  「何言ってやがんでぃ、俺を苛めてるのは、お前じゃねぇか?!」
 
  相変わらず、二人はじゃれ合うだけの喧嘩を繰り返す。
  
   恵はふいに、虫篭を抱えて椅子から立ち上がる。
 
  「とにかくありがとう。すずめちゃんとあやめちゃんにも、見せてあげましょう。」
 
  恵は虫篭を持って、さっさと診察室を出て行ってしまった。
 
  「おい!ちょっと待てよ〜!」
   窓の外に取り残された左之助が、縁側へ向って走って行く。
  
  「わぁ〜っ!左之兄、ありがとう!」
  「ねぇ、ねぇ!この鈴虫いつ鳴くの?」
 
   縁側に置いた虫篭を覗き込み、幼い姉妹は瞳を輝かせている。
 
  「お日様が沈んで暗くなったら、鳴き出すわよ。でも、鈴虫もお腹が空いていて
  は、元気な声で鳴けないわね。」
  「じゃあ、餌をあげる〜!」
  「お姉ちゃん、何をあげればいいの?」
 
   恵も姉妹の横に座り、虫篭を覗きこんだ。
  「胡瓜とか茄子の様な野菜を、薄い輪切りにして篭の中へ入れて置けば、鈴虫も食
  べる事が出来るわよ。」
  「茄子や胡瓜?わかったお姉ちゃん!これからは二人で、世話ををするね。」
  
  二人は台所へ飛んで行って、胡瓜を一本持って来た。
  
  「お姉ちゃん、これどの位に切ればいいの?」
  「薄くて良いのよ。台所へ行きましょう。」
 
  恵は姉妹を連れて、台所へ行った。
  
  リ〜ン、リ〜ン・・・。
  
   一人残った左之助の足元で、鈴虫が鳴く。
 
  「おっ!鳴き出したか?そうか、もう日暮れだもんなぁ。待ってろよ、すぐに餌が
  来るからな。」
  
  「あっ!鳴いている!」
 
   胡瓜の輪切りを載せた小皿を持って、すずめとあやめが戻って来た。
 
  「おう、美味そうな胡瓜だな!」
 
  左之助は小皿の胡瓜を一切れ取って、口に入れた。
 
  「あ〜っ!左之兄が、鈴虫の御飯を取った〜!」
  「ひっど〜い!鈴虫が可哀想!」
  「悪い、悪い。だがよ、味見して遣ったんだぜ。」
 
  ふくれる姉妹に左之助は、頭を掻きながら、苦しい言い訳をする。
 
  「まったく呆れるわね、あんたって男は・・・。」
  いつのまにか戻っていた恵が、冷たく言い放つ。
  「ったく、何だよ、胡瓜一切れぐれぇで!」
  
  すっかり拗ねてしまった左之助に、恵がクスリと笑う。
  
  「虫の餌まで横取りする程、お腹が空いていたのねぇ!」
  「な、何だよっ!」
  
  バツの悪そうな左之助を横目に、恵はすずめとあやめに声を掛ける。
  
  「ねぇ、鈴虫の様には誰からも世話をして貰えない、可哀想な左之兄さんを晩御飯
  に呼んであげない?」
  「うん、いいよ!」
  「左之兄、一緒に御飯食べよう!」
  
   姉妹はいつもの様に、左之助に纏わりついて来た。
 
  「そっか?もう二人共怒っていねぇのか?」
  「怒ってない、怒ってない!」
  「左之兄、あっち行こう!」
  
  左之助は、すずめとあやめに居間へ引っ張られていった。
  
  
  「締まりの無い顔をして・・・。」
  呆れた様に呟く恵の顔は、優しく笑っていた。
  
  
               完
  

 

 

 

 

                               END

きゃんv土方真琴さんからの小説でしたぁvvさのめぐです。

左之助可愛い!大好き!ちゅ(←やめれ)

 

すずめちゃんとあやめちゃんも可愛い。

アニメでありそうですよ、こういう場面!

小国診療所に溶け込んでますね★

左之助ってば、何故か小さい子にモテるんですよね(苦笑)

そんな左之助に恵さんも微笑むしかないデス!

子供っぽい面も左之助の魅力ですよね。

 

原作チックなステキなお話でしたv

真琴さん、有難うございました。

 

2004.10.5 up

 

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