おかえり <聖様より> |
おかえり
一時期に比べれば穏やかになったこの地で、未だ高荷恵は女医として活躍していた。 その美貌は患者達の薬だったし、わざと怪我をしてくる人もいたとかいないとか。 それでも溜息が零れるのは何故だろう、自問自答を繰り返す、 自問が一つ増えるたびに溜息がまた増えた。 コンコン、と診療所の扉を誰かが叩いた。 ハイと返事をして扉を開けると、一人の人物。 ボサボサの髪の毛の彼は軽く手を挙げて言った。 「よう、恵」 と。聞き覚えがあるような声、ぼんやりとした記憶の断片を拾い集め・・ 再度彼を見遣る。思わず笑いが零れて、一言 「物乞いならお断りよ、左之助」 と彼女らしい言葉が出た。苦笑した左之助に、女性の唇がお帰り、と動いた。 尤もこの青年は信州の生まれなのだから『お帰り』は変かもしれない、 けれど青年は気にせずに、ただいま、と返した。 「で、今更何なのよ。私が恋しくなって帰ってきたとか?」 などと冗談めかして狐の如く恵は言った。 暖かい茶の入った湯のみを、座っている左之助に渡す時、 彼女の糸の如き漆黒の髪が静かに揺れた。 気品溢れる行動とはこういう事を言うのだろうか、と青年は一人考えていた。 「ん?ま、そんなとこかな」 カラカラと明るく笑う様子からはとてもではないが『斬左』の 異名を取った人間だとは思えない。合わせる様に恵も笑った。 「さ、着替えてしまいなさいよ。――って着替えなんかないわね、アンタの事だから・・」 勿論、と言わんばかりに左之助は笑う。 日本へ帰ってきてからすぐに此方へ来た事が分かった。 恐らく横浜港から戻ってきたのだから会津よりは東京の方が幾分も近い。 なのにわざわざ会津へ来た。 その意思を汲み取ったのだろうか、恵の顔は穏やかそのものだった。 「まぁ・・・取り敢えずその小汚い髪の毛を何とかしなくちゃねっ! あっちで切ってから帰ってきなさいよ、全く。」 チャキ、とハサミを構える彼女、青年は参ったな、と笑った。 小一時間、診療所にハサミの動く音と、笑い声が響いていた。 『相楽恵』は後に会津一の女医になったという。 END |
☆聖さまからあとがき☆きゃぁ〜(汗)。るろ剣小説最後の作品です。最後が此れで良いのか! 締めくくりが中途半端だったな、と反省しておりますが・・・此れも此れで思い出になるかな、なんて。 イラストの方は送るかもしれませんが、小説は最後です。あぁっ、何処からか『もっと早くに辞めろ』とか非難の声がっ・・(泣) すごい短編ですが、どうぞ貰ってください(ぺこっ) 最後の作品、とのコト。とても寂しいですが、とっても素晴らしい小説、本当にありがとうございました(^^) 2001.7. |