初恋・蕾編

初恋〜蕾編〜
 

   暑い日差しが照りつける中、恵に一通の手紙が届いた
  
  =拝啓、恵さん。お元気でしょうか?会津に診療所を開いたんですね。
   実は私、私用で会津に行く事になりました。八月の十四日にそちらの
   診療所に伺いたいと思っております。恵さんとお会いするのを楽しみ
   にしています。                 梢
  
  「あら、梢からだわ。八月十四日って…今日じゃない!」
  「何叫んでんだよ、恵。」
  「ああ、左之助。実は今日私の友人が診療所に来るって手紙に書いてあるの。」
  「ふーん。それで?」
  「いきなりだし、お茶菓子を買ってないのよ。」
  「そりゃ大変だな。」
  「そうなの。だから左之助、ちょっと町までいってお茶菓子買ってきてちょうだい。」
  「ふんふん…はっ!?」
  「それくらいしなさい!いつもご飯たかりに来てるくせに…」
  「ぐっ…わかった…」
  
  朝昼晩、ほぼ毎日と言っていいほど恵の家にご飯をもらっている左之助にとって
  は恵の言う事には従わざるを得ない。お金を預かった左之助はしぶしぶ恵の家を
  出て行った。
  
  その頃、八月十四日に来ると手紙を出した梢は…
  
  「あ、あの。そこを通してください…」
  「いいじゃねぇか。俺とどっかいこうぜ。」
  「困ります。私知人の所へ行く途中なので…」
  「そんなん後でいいじゃんか、ね?」
  「やめてください!放して…」
  
  男は乱暴に梢の腕をつかんだ。梢は怖さのあまりギュっと目を閉じる
  だが、つかまれた腕は男の手から放れた。そっと目を開けるとそこには
  大きなたんこぶを頭につけ、伸びている男と、そのたんこぶを作ったであろう
  男が立っていた。
  
  「ったく。いい年こいて女を泣かすんじゃねぇ!おい、大丈夫か?嬢ちゃん」
  「え、は、はい…」
  「怪我なかったか?」
  「はい…お助けいただきありがとうございました。あの…できればお名前を…」
  「ん?いや、名乗るほどのもんじゃねぇよ。じゃ、俺用あるから。気をつけて行けよ。」
  「あ、あの。待って…」
  
  止める梢の声も聞かず男は走り去っていった。
  
  (なんてりりしいお方…素敵…もしかしてこれが恋なのかしら―)
  
  わずかに見える男の後姿を眺めながら、梢は高鳴る胸を抑え自分の男への思いを自
  覚していた。しばらくして姿が見えなくなったことに気づいた梢は、恵の診療所へ
  行く事を思い出し、伸びている男に少々びびりながらも診療所へ足を速めた。
  
  それから数十分後、梢は目的の地、恵の診療所へ訪れた
  
  ーカラカラカラー
  
  「こ、こんにちは」
  「梢!久しぶりね、元気にしてた?」
  「はい!恵さんもお元気そうで嬉しいです。」
  「ありがとう。さ、中へ入って。お茶菓子は今買いに行ってるから。」
  「買いに行ってる…?」
  「あ…いつもここにご飯食べに来てる奴がいてね。梢の手紙に今日来るって
   書いてあったんだけどその時お茶菓子切らしてたものだからそいつに買ってきて
   もらうように頼んだのよ。」
  「ごめんなさい。いろいろあって手紙を出すのが遅れたの。」
  「気にしてないわ。それよりもゆっくりしてって。」
  「ありがとう、恵さん…」
  「いいのよ。私達幼馴染でしょ?」
  「うん…」
  「どうしたの梢。なんだか今日は様子が変よ。何かあったの?」
  「あ、いえ…恵さん、これって恋なんでしょうか…?」
  「は…?」
  「実は…私ここに来る時に不良に絡まれたんです。そこである男性に助けてい
   ただいて…その…かっこいいなぁって…」
  「珍しいわね。梢が男の人をかっこいいなんて…」
  
  梢は幼い頃、住んでいた町でよく町の男の子にいじめられていた事があり、それ以
  来男性恐怖症になっていたのだ。そんな梢が初めて男の人をかっこいいと思うなん
  て。いじめられた梢をかばい梢を妹のようにかわいがっていた恵にとってそれは自
  分のことのように嬉しい事なのだ。
  
  「じゃあ、これは梢にとって初恋になるわけね。良かったじゃない。」
  「ありがとう。」
  「で、その人の名前聞いたの?」
  「うん、だけど自分は名乗るほどの者じゃないって言われて。聞けなかった。」
  「ふうん。」
  「恵さん、協力してくれる…?」
  「もちろん、協力はするわ。でもどんなひとかわからないんじゃ…」
  「えっと確か…背が高くて、年は私と同じくらいで…そうそう、背中に悪
   って文字が書いてある一張羅着てた。」
  「…背中に悪一文字の一張羅って…まさか!」
  「おう、恵!茶菓子買ってきたぞー。」
  
  勢いよく玄関の扉を開けて、左之助が帰ってきた
  その大きな声に恵、梢は同時に後ろを振り返る
  その瞬間、梢の顔は驚きの顔に変わっていた
  
  「おっ、何だもう客人来てたのか。ほら恵、お前に頼まれた水羊羹。」
  「あ、ありがとう。」
  「…ん?あれ、なぁ嬢ちゃん。どっかで会わなかった?」
  「あ…あの…えと…」
  「ん〜〜〜…あっ!そうだ思い出したぜ。あんたさっき弱っちい不良に絡まれてた…」
  「えっあ…はい。先ほどはありがとうございました。」
  
  丁寧にお辞儀をしながら梢の頬はほんのり赤くなった
  その表情に恵は嫌な予感と不安が胸の中に生まれたような気がした
  
  「いや、礼をいわれるほどのもんじゃねぇよ。」
  「あ、あの私…浅野梢と言います。どうぞよろしく。」
  「俺は相楽左之助ってんだ。よろしくな!」
  「左…之助様とおっしゃるのですね。」
  「あれ…俺言わなかったか?」
  「あんたが梢助けた時に『名乗るほどのもんじゃない』って言ったんでしょ?」
  「あ、そっか。ま、よろしくな。…梢…でいい?」
  「は、はい!!」
  
  キラキラと顔を輝かす梢の肩を何かがつついた
  後ろを振り向くと恵が梢を手招きしている
  梢は頭に?マークをつけながら自分を呼ぶ恵のほうへ行った
  
  「どうしたんですか、恵さん。」
  「ねぇ、梢。もしかしてあんた左之助のこと…」
  「…はい、好きです…」
  「ダメよダメ!絶対ダメ!」
  「ど、どうしてですか…?」
  「え、それはその…」
  
  ダメ、この言葉に恵は自分に疑問を抱いていた
  なぜこんな事を言ってしまったんだろう…
  ダメなんて、それじゃあまるで自分が左之助を好きだといっているよう…
  
              左之助が好き…?
  
  「恵さん…?」
  「あ、ああ。ごめんねなんでもないの。さっきのは気にしないで…」
  「……?」
  「左之助。悪いけど今晩の夕飯の買い物行ってきてちょうだい。」
  「なんでだよ!俺茶菓子買ってきただろ!」
  「いいから行きなさい!行ってきたら今晩もご飯食べていいから。」
  「それとこれとは別じゃ…」
  「今晩梢が来てるから、すき焼きにしようと思ってるのよね・・・」
  「任せろ、恵。いい肉買って来てやるぜ!」
  「あ、あの、左之助様。私も一緒に行ってよろしいですか?会津のことまだよく知らないので…」
  「え、いやぁそれは…」
  (恵さん…)
  「…一緒に連れてってあげて。彼女ここに来るの初めてで私も診察とかで忙しいから案内する暇がないのよ。」
  「んーよし分かった。ついてこいよ。」
  「ありがとうございます、左之助様!」
  「…あのさ。その‘左之助様,って言うのやめてくんない?」
  「え、はい。左之助…さん…?」
  「そうそう。」
  
  ほのぼのとした梢と話す左之助を見て恵の心は嫌な気持ちで覆われた
  先ほどの疑問がまた頭を過ぎる
  
  (まさかね…)
  
  この気持ちがなんなのか一つだけ思い浮かぶ
  誰もが持っているこの感情
  恵は自分の椅子に腰掛けた
  窓の外を見ながら物思いにふけっていた
  
  (でも、梢に協力するって言ったし。今更自分の気持ちを左之助にいってもな)
  
  次第に射す夕日に恵の顔は少し赤らむ
  すると玄関の扉が開いた
  患者かしら…そう思い恵は椅子から立ち玄関へ向かう
  診療室のドアを開けると同時に恵の視界は暗くなった
  一瞬感じた腹部の激痛
  倒れる瞬間に男のの顔を見た
  気を失った恵は男の腕に落ち、それを見ながら男は不審な笑みを浮かべた
  
  しばらくして左之助、梢は診療所に帰ってきた
  先ほどよりもずいぶん打ち解けたようだ
  話をしながら診療所のドアを開ける
  が、開けたとたんに二人の表情は変わり、左之助の手からは買い物袋が落とされた
  部屋が荒らされている。
 
  探し物をした風もなく、ただ荒らしていったみたいだ
  本は散らばり、鉛筆やカルテはばら撒かれひどいありさまだった。
  そんな中、机に一枚の紙切れが置いてあった
 
  素早くそれに手を伸ばし早々と左之助はそれを読む
  読み終わったと同時に左之助はドンッと握り拳を机にたたきつける
  梢はそんな左之助を見ながら恐る恐る左之助が読んだ紙切れに手をやる
  その紙を見たとたん梢は両手を口に当てわずかに震えていた
  一番初めに書かれていた文字にすべてを悟った
  
                =女を殺す=
  
  
  
  
  
  
  
  
  
 
 

                                             END

優月ちゃんから頂きました。

連載作品です♪キャー恵さん、どうなっちゃうの?

そしてそして梢ちゃんと左之助と恵の

三角関係は?!

気になる気になる気になる〜〜〜!(><)

早く続きが読みたいですvv

 

ステキな小説有難うございました★

2005.3.4

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