いつかきっと【みお様より頂きました】

 

『いつかきっと』

 

 

「で?」

高荷恵は腕組みをして、診察室の椅子に腰掛け窓の外を眺めた。

「で、って言われてもよぉ…」

相楽左之助は、恵の向かいの椅子に座って、大きい身体をなんとか縮めている。

 

「…言われても、じゃないでしょ?」

 

気のせいと思い込もうとしても、どうにも無理な時がある。

今回のが見事にそれで、どう見ても左之助は叱られているとしか見えない状況であった。

 

「左之兄、どうしたの?」

 

奥からあやめとすずめともう一人、見慣れぬ女の子が顔を覗かせる。

 

「何でもないのよ。皆で遊んでいてね」

 

子供達に母親のような慈愛に満ちた微笑みを向け、恵は言った。

そして子供達が奥へ下がったのを見届けてから、

今度は左之助に氷のような視線を向ける。

 

「それで?他に言うコトはないの?」

恵の『睨んでいる』としかいえない視線を一身に浴び、

左之助は真っ青になって首をすくめた。

 

―さっきから言ってるじゃねぇか…。

 

事の起こりは、わずか数時間前だった。

 

 

左之助は、昼近くに長屋で目を覚ました。いつもの習慣である。

 

「さってと…。まだ道場で飯食わしてもらうとすっか」

 

最近は無銭飲食はなるべく避けるようにしていた。

とはいっても無職である。誰かに頼るしかない。

 

左之助は、小国診療所へ行く前に、神谷道場へ向かった。

最近通るようになった川の辺りの道を歩いていると、川の近くで近所の子供達が楽しそうに遊んでいるのが見える。年の頃は、弥彦とそう変わらない。

 

「気楽でいいねぇ」

 

自分の事は遥か高い棚の上にあげて左之助は独り言を呟いた。しかし―

 

「なにがぁ?」

 

背後から聞こえる声に、はっとして振り返る。が、誰もいない。

 

―おかしい…確かに聞こえたのに。

 

進路方向に向き直って頭をかきながら、左之助はひとりごちた。

 

「幻聴かな…」

「げんちょーってなぁにぃ?」

 

今度は空耳じゃない。確信して左之助はもう一度振り返る。

けれど、視界にはやはり誰も映らない。

 

―俺、おかしくなったのかな…。

「ねーっ」

 

下衣の裾が引っ張られる感覚に、声の主が自分の足元にいたことに気づいた左之助は、

呆気にとられた。

 

「なんだ、お前。どっから来た?」

 

左之助は、大きい身体を苦心してたたみ込み、少女の目線へとなんとか合わせようとした。

少女というより、まだ幼女といったほうがいいかもしれない。

左之助は、子供の年などさっぱりわからないが、

それでもこの子がまだ母親の保護が必要な年だと言うことくらいはわかる。

 

「かあちゃんはどうした。一人なのか?」

 

左之助と幼女。この取り合わせに、弥彦が居合わせようものなら、腹を抱えて笑ったに違いない。それほど妙な組み合わせであった。

 

「かあたま、いない…」

寂しげに指をくわえ、舌足らずながら懸命にそう言う幼女を左之助は不憫に思った。

 

「いないって…お前、どこからここまで来たんだ?」

 

左之助の疑問は、この子には難しすぎたようで、幼女は眉間にしわをよせ

訴えるような視線を左之助に向ける。

 

「…かあたま、どこ…?」

 

「…」

このまま放っておくわけにもいかない。左之助は、立ち上がって、困ったように頭をかいた。

 

「ああ、ほら泣くな。俺も一緒に探してやっから」

ふぇ、と目に涙を溢れんばかりにためた幼女の頭を軽く撫でた左之助は笑った。

 

「お前も笑えよ。そしたら、かあちゃんもすぐ見つかるからよ」

 

ほんと、と幼女は目を輝かせた。母親の力は偉大だ。

ああ、と微笑んだ左之助は、彼女を肩車して、神谷道場へ向かった。

 

続く―

                    

緋田みお様から頂きました〜vv連載作品でございますvv左之助と子供。やっぱり頼ってしまうのは恵サンなんですね♪

これからどうなるのかとっても楽しみです!!みお様から続きを頂き次第upして行きます★

みお様はHP『桜花堂本舗』を運営なさっています。素敵な小説がたくさんですよ♪リンクから行くことが出来ます♪

みお様、本当に有難う御座いました♪                   2002.5.25

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