陽炎 〜第四章〜 |
陽炎《第四章》 燃えさかる炎 遠のく意識の中で聞いたのは 間違えなくあの人の―。 (あそこかっ…!!) 出火から半刻と少し。 左之助はようやく安西家の門の前まで来ていた。 民衆は人事だからと言って ざわざわとひしめきあい門の前後で 火事を見物し、大きな人の壁となっている。 左之助はその様子を見、チッと舌打ちをした。 (おめぇらは人事かもしんねぇけどなぁ…) 「おらぁ!どきやがれ!」 (俺にとっては人事じゃねぇんだよ…!) そう叫び、人込みを蹴散らしながらながら ただ左之助は もう半分以上焼けた 玄関へと突っ走っていた。 「オイ君危な…わっ?!」 止めようとした警察官をも 蹴散らし左之助はひたすら突っ走っていた。 (くそっ…何であいつ一人で…) 町をふらついていた自分も悪い。 だが、恵が自分を頼ってくれなかったことに なにか憤りを感じていた。 「―………!!」 バンッ! 音をたて、勢い良くあけた扉。 左之助はその様子を目の当たりにし自分が遅れをとったことを痛感した。 目の前にはただ…火の海があるだけだった。 人の気配もまるでせず炎が全てを支配しているような錯覚に陥る。 無残にも落ちたシャンデリア。 半分以上焼けた一つの階段。 踊るように舞う火の粉。3人はこの恐怖を肌で感じているのだろうか。 「くっそ…」 だが戸惑っているわけにはいかない。 もう出火から一刻を過ぎようとしている。 火の手は進むばかりだ。 「恵ーーっ!いたら返事しろ!あやめー!すずめー!」 火の海へと飛び込みながら 左之助はただひたすらに叫んでいた。 * 「あやめちゃん!すずめちゃん!」 二人の一応は無事な姿を見、少しだけ気が緩む。 外傷はこれといってない。 恵はすすで汚れた二人の顔を叩いた。 「……ん」 明確な応答はない。 「二人ともしっかりして!!」 耳元で叫ぶ。 一番奥のこの部屋にも もう火の粉が舞い上がるまでに 火事はひどくなっていた。 「っ!」 火の粉は容赦なく舞う。 火事によって熱せられた空気も その火の粉を踊らせる。 恵の意識も朦朧としてきた。 (駄目っ。この子たちを…絶対に守るんだからっ。) 重たくなってきた頭をひたすらふり、 自分の頬を力いっぱい叩く。 「兎に角…息の…息の確保を…」 恵は呼吸を荒げつつ二人を抱きかかえ 窓の方へ這って進む。 火の手はますます強くなり、この奥の部屋にも熱が濛々と篭っている。 恵はふっと会津で見た戦火を思い出す。 燃えている炎。燃え盛る町。そして離れ離れになった親兄弟。 「っ…!」 足はかくかくと震え、二人を抱きしめた手もいつのまにか痙攣している。 「誰…か…。」 (…こわい。) 「助け…てっ…」 (私だけじゃこの子達を助けてあげられない…誰か…) 「っさの…す…け」 恵は二人を抱いたまま燃え盛る部屋で、意識を手放した。 ■続く■ 挿絵募集中デス |